Short

□無音のラブソング/ロー
1ページ/4ページ



北の国の夏は短い。

額の汗を拭って仰いた空に、白い雲が悠々と流れてゆく。
しばらくそれを眺めてから、振り向いて窓の向こうの彼に視線をやった。

キツい日差しを避けて部屋に籠もる彼は、ここからではその横顔しか見えなかったが、きっと難しい本を読んでいるに違いない。

唇を噛んで古いギターを持つ手に力を込めた。

埃だらけのそれは、今し方倉庫から引っ張り出してきたものだ。

手のひらで軽く埃を拭い親指でひと掻きしてみると、当たり前だが酷い音がした。

「まるで私の心のようね」

木で出来た柵に腰掛けてギターを抱え、一本ずつ弦を弾いて音を確かめながら調律をする。

古いから、切れてしまうかもしれない。

――まるで2人の関係のようだ、と彼女は思った。





「痛い!染みる、染みるよロー!」

案の定ビンッという音をたてて切れた弦は、勢い良く弾けて彼女の手まで傷つけた。

「自業自得ってやつだ」

言いながらローは、少々荒っぽい消毒を終えてガーゼを手に取った。

普段手を繋ぐなんて事はしてくれないローだったから、彼が処置の為だけに自分の手を取っているのだと知っていても、手を繋いでいるような錯覚に胸が震える。
 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ