短編小説1

□13日の金曜日
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……よく、分かりませんわ。

確かにリクさまの仰有った言葉はわたくしを気に入って下さっているかのようでした、……でも。

好きな女の子に対して『平凡で不器用で更には頭も悪い』なんて言う殿方が居るというのでしょうか?
いいえ、居るわけありませんわ!

「そんなことを言うなんて……なにが目的ですの、この悪の化身がぁッ!」
「……なんでそんなに信用無いんだろうな、俺って」
「日頃の行い!」
「清く正しく生きてんじゃん」

そんなに安っぽい『清く正しく』は初めて聞きました。
これもある種の才能ですわね。

「ま、どう足掻いたって俺達は一緒に住むことになるけどな」

…………はい?

勝ち誇ったようにわたくしにそう言ったリクさまは、顎先で何やら後ろを見るようにわたくしに指示を出す。

後ろ?後ろがなんですの?

不思議に思って振り返れば、そこには仲睦まじく鍋をつつくご主人様と啓介さま。

お二人がどうかしまして……?

「今日、啓介がお前んとこの美樹にプロポーズする」
「……ぷろぽーず?」
「求愛だ、求愛」
「きゅ、きゅうあいッ!?」

で、でもッ!

「まだ春は遠い先で御座いますが!?」
「人間はオールシーズンオーケーだからなぁ、器用なもんだ」
「うぇえぇっ?」

そうなんですの!?
なんて器用な!

って、そんなことじゃなくて!

「でっ、ではっ……お二人はっ、」
「美樹が断らねぇ限り、一緒に住むんじゃねぇの?どこに住むかは知らねぇけどな」
「…………そ、そんな、」

思わず目尻に涙が溜まってしまいます。
尻尾がざわざわしますわ……。

だって、ですわよ!?

ご主人様と啓介さまがご一緒に暮らされる、ということは……。

つまりは……つまりは!

わ、わたくしと、リクさまも……ッ!

「耐えられませんわーッ!」
「にゃあにゃあにゃあにゃあ、うっせぇなぁ。発情期ですかコノヤロー」
「春はまだまだ先ですわーッ!!」
「ま、とりあえず諦めろよ、コモモ」

不意に髪を引かれて。

女の子の髪を引っ張るような暴挙に出るのはリクさまくらいだから、迷わずリクさまを振り返れば。

リクさまが、普段は無表情なそのお顔を楽しげに緩めておいででした。

「これからは毎日一緒だな?」

そう仰有ったリクさまは、見たことないくらい楽しそうで。
寒気がしました。

「俺から逃げられると思うなよ」

ふ、と見上げたカレンダー。

……あぁ、なるほど。




今日は13日の金曜日でしたのね。
































END.
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