短編小説1

□Have a makeup!!
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須崎美空、17才。

今、人生を試されている気がします。










『嗚呼、マイダーリン』










文化祭から約ふた月。

寒さも本場となって来た、12月某日、日曜日。

私は先生の住むアパートに居た。

「…………」
「…………」

今日は、先生とのデートの日。

デート、と言っても、先生のアパートで勉強を教えてもらうだけなんだけど。

でも、それが私達にとって、二人で居られる特別な時間。

なのに。

「…………」
「…………」

先生は、無言。
その空気が重たくて、私も、無言。

かち、かち、かち。

会話が無いせいで、やけに時計の音が大きく感じる。
そんな時計は、私がこの部屋に来てからの、会話の無い時間経過を残酷に指していて。

「…………」

かち、かち、かち。

「……せんせい?」
「なに」
「…………なんでも、無いです」

話しかければ、返事をくれる。

でも、その声は冷たくて。
そのうえ、先生は私の方を見てもくれない。

そういえば、この部屋に入った瞬間からそうだった。

先生は私を見もしない。

先生に早く会いたくて、走ってここまで来たっていうのに。

“いらっしゃい”

いつもなら、そう言って迎え入れてくれるのに。
私にしか見せない、柔らかい笑みを見せてくれるようになっていたのに。

「…………」

迷惑でしたか?
疲れてますか?

それとも。

私なんて、面倒臭くなったんですか?

聞きたい事はたくさんあるのに、肯定されたらと思うと、怖くて聞けない。

私はぎゅっとシャーペンを握り締めて、ノートに目を落とした。

「…………」
「…………」

先生は相も変わらず、私に背を向け、何かの書類を読んでいる。

「…………」

かまって。
なんて、言えるわけない。

涙が溢れそうになるけれど、ここで泣いたりなんてしたら、完璧に面倒臭いオンナになっちゃう。

……ダメだ。
勉強に集中しよう。

そう思って、私は数学の教科書を探す。

出来るだけ苦手な教科の方が良い。
その方が、勉強だけに集中しなきゃいけなくなれるから。

余計な事、考えなくて済むから。

「…………」

教科書は、すぐに見つかった。
そんなに広い部屋じゃないからね。

それは、先生が腰を下ろしているすぐ横に無造作に放置されていて。

私は、それを拾うために先生のそばに手を付いて、反対側の手を教科書に伸ばした。

その、時。

「……ぅ、わッ!!」

がたんっ!!

「…………ぇ、」

最初、何が起きたか分かんなくて。
私はただ呆然と、随分と遠くへ行ってしまった先生を見つめていた。

先生に、よけられた?
手を伸ばした、だけ、で?

私に、触れられるのも、いや?

「ッ…………」

自覚したら、もうダメだった。

頭が痛い。
鼻がツンとする。

視界が、滲む。

「っ、……ッ」

でも、ここで泣いたら。
面倒臭いヤツに、なっちゃうから。

「今日は、すいません、でした、」

私は俯いたままに教科書やノートを鞄に詰め込んで、立ち上がった。

先生の方は見ない。

だって、みっともなく泣いてる顔を見られたくないから。

「ッ、かえ、り、ます、」

声が震える。
肩が揺れる。

みっともない。

嫌われたくない。

拒否されるのが、怖い。

「ごめ、なさ、ッ」

私は、逃げるように玄関へと向かう。

視界が滲んでるせいで靴が上手く履けなくて、引っ掛けたままにドアを開けた。

のに。

「須崎ッ!!」

バンッ!!

目の前で勢い良く閉まったドア。
体に回された腕。

「ごめん、違うんだ」

耳元で聞こえる、かすれた声。

「せん、せ……」
「違うんだ、須崎、俺……」

玄関先で、先生は私を抱き締めたまま動かない。
私も、抱き締められたまま、動けない。

「ッ、く、……ッ」

なんで、こんなことするの?
めんどくさいって、おもったんじゃないの?

パニックに陥った私は、ここが玄関先だという事も忘れて、泣きじゃくった。

そんな私を強く強く抱き締めて、先生はかすれた声で「ちがうんだ」と囁いて。

「上手く言えない、けど、」


お前のことがすきすぎるんだ。


そう、つぶやかれた言葉に。
耳の後ろに落とされた、小さなキスに。

めまいがした。




嗚呼、人の気も知らないで。

マイダーリン。



「ばか」



悲しい涙が、愛しい涙に変わる瞬間。





















END.
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