短編小説1

□SとMの確信
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私の幼なじみ、月島刹那くんは。

お隣のお家の一人息子さんで。
綺麗で、格好良くて。
背が高くて。
私より3つ年上の大学生で。
頭も良くて。
町内のみんなに好かれてて。
サディストだということ以外は、欠点なんて見付からないくらい、完璧で。


そして、最近の私は。


そんなセツ兄ちゃんに、少しずつ流されて来ているようだ。




















『SとMの確信』




















なんで、こんなことになったんだ。

ガタン、ガタン。
ガタン、ガタン。

揺れる電車の中、私は必死で自分の頭の中を整理していた。

なんで、私はこんな異常な状況にあるのだろうか?

乗り慣れた、いつもの電車。
いつもより少し時間が遅いために、通常より人は少ないけれど、それでもぎゅうぎゅう詰めの満員電車。
いつもの制服。
いつものサラリーマンさん達。

いつもと同じ、日常風景。

ただ一つ、違うのは。

「……ッ、ふ」

なぜか私が、制服の下に何も穿いていないという、この異常事態だけである。

異常事態で非常事態だ。
ちょっとでも激しい動きをしようものなら、絶対に中身が見えてしまう。
それだけは避けたい。

ガタン、ガタン。
ガタン、ガタン。

揺れる電車。
定まらない思考。

「…………っ」

なんでこんなことになったのか。

それは、今現在も私のことを幸せそうに見つめ続けている、目の前の幼なじみを怒らせてしまったことが始まりだった。
目の前の幼なじみ……セツ兄ちゃんの言い付けを破り、運悪く痴漢にあってしまった私を助けてくれたヒーローは、実はヒーローなんかじゃなかったと言うわけだ。

むしろ、初めからヒーローなんかじゃなかったんだよ。
スカートについて口煩く忠告してくるアンパンマン(ヒーロー代表)とか嫌すぎるでしょ。

そして、そのサディスティックで変態なエセヒーローは、警戒の仕方を覚えろと言って私の下着を剥ぎ取り、この満員電車に押し込んだのである。

ほら、やっぱりヒーローなんかじゃない。

「めーちゃん」

名前を呼ばれて、思わず体がびくついた。

見上げれば、そこには笑顔のセツ兄ちゃん。
ポケットの中に私の下着が詰まっているとは到底思えない、爽やかな笑顔。

「……どう?」

どうって、なにが?
気分なら最悪ですが。

そんな悪態が頭をよぎるけれど、そんなこと口になんて出来ない。
それくらい、先ほどまでのセツ兄ちゃんの怒りは強烈だった。

「警戒の仕方、分かってきた?」

……あぁ、それは確かにね。
良く分かりますよ。

だって、私は下着を穿いてないんだよ?
少しでも見られたらそんな事はすぐにバレてしまうし、バレてしまえば私は立派な変態で犯罪者だ。

猥褻物陳列罪、とかになるのかな。

……めまいしてきた。

「ッ、…………はぁ」

さっきから頬が火照って仕方が無い。
車内の人口密度と、セツ兄ちゃんが無駄に熱い視線を送ってくるせいだ。

あつい。

じっとりとした汗が滲んで、スカートが地肌に張り付く。

……どうしよう。
パンツ穿いてないって、誰にもバレてないよね?

どうしてもやっぱり気になって、私は電車の入り口付近、手すりのある壁に背中を付けた。
席が空いたら、椅子に座ってしまおうかとも思ったけれど、それは危険な気がして。

ガタン、ガタン。
ガタン、ガタン。

「……ぁ、すいません」
「ッ!!ぃえッ、だ、大丈夫ですっ」

隣に立つ人が少し動いただけでも気になって、ぎゅっと身を縮めて。
異常なほどの警戒心を剥き出しにした私は、人の目にどう映っているのだろうか。

「…………はぁ」

一時的な緊張を切り抜けた私は、ほっと小さく息を吐いて、強張りきった体の力を緩めた。
俯いたまま呼吸を整える私の視界に入って来た、男性物の黒い靴。

見覚えのあるそれに視線を上げれば、やっぱりそこには嬉しそうななセツ兄ちゃんが。

人の気も知らないで、幸せそうな顔しちゃってさぁ!

「……すいません」

恨みがましく見上げる私の視線を無視して、セツ兄ちゃんはやけに他人行儀にそう話し掛けて来た。

なに?

「こっち、すごく人が多くて……少しだけ、詰めていただけませんか?」

…………え?


 
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