短編小説1

□SとMの悪戯
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私の幼なじみ、月島刹那くんは。

お隣のお家の一人息子さん。
綺麗で、格好良くて。
背が高くて、頭も良くて。
町内のみんなに好かれてて。
サディストだけど、それを欠点だと言わないのなら、完璧で。

年は、私の三つ上の大学生。


ゆえに。


最近、少し忙しいみたいだ。




















『SとMの悪戯』




















最近、セツ兄ちゃんからの連絡及び呼び出しがめっきり無くなった。

べつにそれがどうって話じゃないんだけど……。
むしろ、喜ぶべきことなんだろう。
変なことされずに済むし。

……でも。

なんか、もやもやする。
意味も無く、携帯電話の待ち受け画面を見詰めてしまう。

ぱかっ。

折り畳み式の携帯電話を開いて、待ち受け画面を確認。
着信、新着メールは無し。

「…………はぁ」

ぱたんっ。

溜め息と共に携帯電話を畳み、私はソファーに体を投げ出した。

自宅の広いリビング。
白い壁、白いカーテン。
白いソファーに一人横たわる私。

……なんだろうこの空虚感。

「……芽衣?」

ぼんやりと風に揺れるカーテンを見つめていた私の視界に飛び込んできたのは、エプロン姿のお母さんだった。
不思議そうに私を見つめてくる。

「…………なに?」
「ぼんやりしちゃってどうしたのかなって。大丈夫?生理?」
「……生理は2日ほど前に終わりました」
「そう?具合悪いなら薬飲んでゆっくりしときなさいよ」

ちょっとお母さん出掛けて来るから、とお母さんはエプロンも外さぬままに玄関へと向かおうとドアを開けた。

あぁ、もう。
おっちょこちょいなんだから。
……そんな年でも無いんだろうけど。

「ちょっと、愛美さん」
「なんでございましょうか芽衣ちゃん」
「素敵なエプロンが着いたままでしてよ」
「あら、これはわざとですのよ」
「……どこ行くの?」

エプロン着けたまま行けるのはゴミ捨てぐらいのもんでしょうよ?
ぁ、もしかして、ほんとにゴミ捨て?

「違う違う」
「じゃあ、どこ行くの?」
「月島さんとこ」

月島さん?
……お隣さんなら確かにエプロンのままでも行けるよね。

てゆぅか。

「…………なにしに行くの?」
「何しにって……何かしらね、うーんと、……お手伝い?」

お手伝い?

「そ、お手伝い。なんか月島さんとこ勝流さんも幸子さんも出張みたいなんだけど、いつもなら刹那くんが、」

説明しよう!

普段ならご両親が不在でも家事全般をきっちりこなしてしまうセツ兄ちゃんだが、なんだか最近は大学でのレポートや研究に追われているらしく、どうしても家事に手が回らない。
そこで、我が母上である綾倉愛美が出動というわけである。

「…………芽衣?」
「はぅあッ!?」
「どうしたのぼんやりして……やっぱりあなた夏風邪を、」
「大丈夫!なんでもないから!!」

あまりの動揺に頭の中で戦隊ヒーロー物のナレーションが流れてしまった。
ほんとに大丈夫か私。

でも、仕方が無いよ。

上手く行けば、セツ兄ちゃんに会えるかもしれないんだから。
……いや、べつに会いたいとかそんなんじゃないんだけど、その。

「……おかあさん」
「なぁに?」
「お手伝い、私が行ってこようか?」

そんな私の申し出に、お母さんは怪訝そうな顔をする。

「……どういう風の吹き回しよ」

……なにが。

「だってここのとこ、やけに月島さん家に行くの嫌がってたじゃないの。ほら、お造りの時とか……」

う、それを言われると……。

確かに、ここ最近の私はセツ兄ちゃんに会うのを避けてたし、月島さん家に行くのを嫌がっていた。
だって、ほんとにこないだまでは嫌で嫌で仕方が無かったんだよ。

でも、今は、……いや、会いたいとかそんなじゃなくて、その。

「…………ぁ、」
「なによ?」

不意に私は声を上げてしまう。
そんな私をお母さんは相も変わらず怪訝そうな表情で見つめているけれど、そんなこと気にならかった。

そうだよ、見つけた。
私が月島家に行かなきゃいけない理由。

「お母さん!」
「……な、なによ、急に」
「私、こないだ月島さん家に目薬忘れたのっ!!」

こないだって言っても春先のことだけど!
しかも花粉症用の目薬だから、今は全く必要無かったりするんだけどね!!

だけど、ほら!
春の花粉がぶり返してくるかもしんないじゃない?
ほら困った!
ほら、取りに行かなきゃ!

「……なんでそんなに嬉しそうなのよ」
「べっ、べつにっ!?」
「……そう?まぁ確かに、行ってくれるのなら助かるんだけど」

洗濯とか洗い物とか、出来るわよね?
そんなお母さんの問いに、私は力いっぱい頷く。


 
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