短編小説1

□炉心溶融‐メルトダウン‐
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これは私の最後の賭け。



















『炉心溶融‐メルトダウン‐』


















行き交う人々。
子供達の楽しげな声。
遠くで聞こえる祭り囃子。

「……ぁ、かき氷食べたい」
「買ってこようか?」
「ありがと、でもこれくらい自分で買うよ。ちょっと待ってて」

独特の雰囲気。
独特の喧騒。

そんな歩行者天国の縁日で、この場に溶け込めていないのはきっと私達だけだ。

「ごめんね、お待たせ」

いちご味とブルー・ハワイのかき氷を購入して戻れば、水沢くんは少し困ったように微笑む。

「2つも食べるの?」
「……私ってそんな大食らいに見える?こっちは水沢くんの」
「…………あぁ、やっぱり?」

右手に持った、目が覚めるほどの青色の方……ブルー・ハワイ味を渡せば、水沢くんは更に眉を八の字にして受け取った。

なにか問題でも?

「……いや、暑いから有り難いんだけどね。出来ればそっちが良かったかな」

そっち、と水沢くんが指差したのは私が左手に持っているいちご味のかき氷。

「…………だめ、こっちは私の」
「ブルー・ハワイは舌が青くなるから恥ずかしいんですけど」
「その恥ずかしい思いを彼女にさせようってのかしら?」
「……有り難く頂戴いたします」
「よろしい」

そう言って笑い合う姿は、なんの変哲も無いただのカップルにしか見えないだろう。
この縁日に何百組と来ている他のカップルと何一つ違いは無いはずだ。

でも。

私達は、違う。
他の幸せそうなカップル達とは、一番大切な部分が違い過ぎるのだ。

「……あつい」
「こんだけ人が集まりゃ暑いだろうな。つーか、こんなに人来んだね……俺初めて来たから知んなかったけど」
「うそ。ここらへんって夏休みのイベントこれくらいしか無いのに……」
「家で寝てましたから」
「うわー、無気力」

そんなどうでも良い会話を続けながら、人でごった返す道を進む。

りんご飴、焼きそば、チョコバナナ。
くじ引き、金魚すくい、お面屋さん。

オレンジ色にも似た照明に少し目がチカチカする。

家族連れに、カップルに。
色々な年齢層が集まるこの場が新鮮で。

金魚すくいに奮闘する子供達を見守る夫婦の優しい目が。
体を寄せ合って歩くカップルの、一生懸命着たであろう浴衣の色が。

それが羨ましいなんて、思っちゃいけない。
そこまで欲張ったら、バチが当たる。

「如月さん?」
「……え?」
「大丈夫?顔色良くないよ……?」
「ぅ、うん、だいじょ、」

大丈夫、そう言うつもりが最後まで言葉を紡げなかった。

オレンジ色の照明が。
手を繋ぐカップル達の浴衣の色が。
目の前の、心配そうな水沢くんの姿が。

歪んで、溶けて、混じって。

「如月さんッ!!」

気付けば私は、食べ落とした焼きそばやかき氷の水たまりの残る道端にへたり込んでいた。

もうだめだな、最近体力の低下が目に見えて酷い。

ぐるぐる、ぐるぐる。

頭の後ろの方が痛い。
体の奥の奥が、気持ち悪い。

……内蔵が溶けてるんだ。

分かりもしないのに、なぜかそんなことを思った。

「如月さん、大丈夫?帰ろうか?」
「…………だめ」
「そんなこと言ってる場合じゃ、」
「だめ、大丈夫、だから」

私にとっては、きっとこれが最後の夏。
最後のお祭り。

だから。

「……おねがい」

あの日と同じ台詞を口にすれば、水沢くんもあの日と同じ顔をして、頷いた。
怒っているような、悲しんでいるような、よく分からない顔。

「とりあえず、休めるとこ行こう」
「……うん」
「大丈夫?立てる?確か向こうに駐輪場があったはずだから、」


 
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