短編小説1

□世界くんと未来ちゃん
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6年2組、月島未来。

わたしにはたった一つだけ、嫌いなものがあります。
父に似て“ハクアイシュギ”なわたしには、嫌いなものがあること事態珍しいのです。

確かに、馬鹿なクラスメートや役に立たない先生達を『好き』だとは言えませんが、『嫌い』だと思うほど強く彼等を認識したことがないので、べつに嫌いだというわけでは無いのです。
彼等は居ても居なくても同じですから。

そんなわたしにも、嫌いなものがあります。

それは、弟の世界です。

双子のわたし達は産まれた時からずっと一緒に居ますが、わたしは昔から世界のことが嫌いです。

小さくて。
弱くて。
すぐに泣く。

あんなのと血を分けたと思われるのは真っ平ごめんですし、本当は関わりたくも無いのですが、大好きな母に『世界を守ってあげて』と泣かれれば仕方がありません。
母の泣き顔は大好きですから。

ですから、わたしは世界を守るのです。

母と約束したからです。
決して、わたしが世界を好きだから、というわけではないのです。

そんなこと、有り得ないのです。

だって。

わたしは双子の弟が嫌いなのですから。
















『世界くんと未来ちゃん』




















「世界、どこ行ったか知らない?」

放課後の教室。
夕日の差し込むそこで、わたしは数人残っていたクラスメート達にそう聞いた。

世界、どこ行ったか知らない?

その言葉が“質問”では無く“警告”であることを、この馬鹿な男子共が理解出来れば良いのだけれど。

「な、なんだよッ!んなことオレ達が知るわけねーだろッ!!」
「そうだよっ、ま、毎回、毎回ッ!!」
「し、しッつけーんだ、よッ!!」

それを言うなら、懲りずに毎回毎回同じこと繰り返すあんたらのほうがネチっこいと思うけどね?
さすがに気付いてんのよ、わたしだって。

あんたらが世界をイジメてることくらい。

「オレ達が世界をどうしようが、月島の姉貴のほうには関係ねぇじゃんかッ!」

まぁ確かにそれはそうよね。

……でも、ね。

「わたしだって好きでこんなことしてるわけじゃないわよ。でも仕方無いの、ママからの“お願い”だから」

聞きなさい、虫けら共。

「わたしはね、ママの“お願い”を守るためなら……虫けらの1匹2匹消すくらい、構いやしないのよ」

だから、ねぇ。

「下らない話にわたしを巻き込まないでちょうだい。わたしだってあんな愚弟に構ってられるほど暇じゃないの。まぁ、あんたらが世界の居場所を吐かないって言うんなら、」

……あんたらから吐きたくなるまで、ぼっこぼこにしてあげても良いけどね?

そう言って指を鳴らしつつ微笑めば、教室に居残っていたクラスメート達は震えていた足を更に震わせて。
真っ青になりながら首を振った。

前に感電させてあげたのが、よっぽど印象に残ってるのかしら?

「ひッ……ぃ、言う!言うからッ!!」

そんな簡単に折れるくらいなら、最初っから抵抗しなきゃ良いのに。
無駄な抵抗は相手の加虐心に火を付けるって分からないのかな。

こいつらにうちのママとパパを見せてあげたいわ。

「が、学校裏のッ、じ、神社ッ、に、」
「……今度は世界になにを吹き込んだの?なにをやらせようっての?」
「べつッ、べつになにもッ、」
「もう一度だけ聞いてあげるわ。今度はなにを言って、あの馬鹿をこんな馬鹿なことに引きずり込んだの?」

いいかげんにしてくれる?
そろそろ苛ついてきたわよ?わたし。

「がッ、崖の近くの犬ッ!」

いぬ?

「神社の端にッ、が、崖があって!そ、その近くに繋がれてる犬が居るんだッ!!」
「あぁ、よく吠えるって噂の土佐犬……だったかしら?その犬をどうしろって言ったの?殺して来いとでも?」
「そこまでは言わねーよ!ひでぇなお前!ただ、オレ達は……その犬のエサ入れを取って来い、って……。そしたら、」
「仲間に入れてやるって?」

自分でもびっくりするくらい見下したような声が出て、そんなわたしの声に馬鹿共は肩を強ばらせた。

……くだんないわね、ほんと。

「まぁ良いわ。じゃあ世界は裏の神社に居るってことね?」

面倒臭いけど仕方無い。
わたしは世界を追い掛けるために、教室から出ようときびすを返した。

……あぁ、そうだ。

言わなければいけないことを思い出して、わたしは夕日差し込む教室を振り返る。

「みんな、世界の無事を祈ってることをオススメするわ」
「ぇ……?」
「わたしは正直、世界の首が土佐犬に食い契られようが内蔵を引きずり出されようが、どうでも良いんだけど、」

でも、そんなことになったらママが悲しむでしょう?

「ママを悲しませたら……今度はスタンガンなんかじゃ済まさないから」
「ひ……ッ!」


 
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