短編小説3

□彼女の敗因
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「純子ちゃん?」

そんな風に名前を呼ばれて。
私はやっと我に返った。

「ご、ごめん、なんかぼーっとしてた」
「例えぼんやりしていてもキミは美人だよジュンちゃ、」
「はい山田は黙れ。とりあえず、みんなで頑張ろうねって話!」
「うん……」
「目指すは男女共に学年優勝だよー!!」

そう言ってはしゃぐクラスメートになんて言ったら良いのか分からない。

確かに優勝はしたいし、頑張るつもり。

だけど、たかが学校競技だと思っている冷めた自分も居て。
目の前の小さくて可愛いクラスメートと同じようにはしゃぐことが、『冷たく見える』と言われる自分には合わない気がして、気恥ずかしくて。

そんなことをぐるぐると考えて黙ってしまった私の腕を、背後に居た山田がおもむろに掴んだ。

な、なにっ!?

「はい、ハイターッチ!」

そう言って、私の腕を持ち上げる山田。
170cmある私にこんなことを出来るのはクラスでも山田だけだろう。

抵抗しようにも、後ろからがっちりと腕を捕まれては何も出来ない。

そんな私の目の前で、クラスメートはキッと私達を睨み上げた。

「届かねっつの!馬鹿!」

馬鹿なんて初めて言われた……!

優等生は打たれ弱い。
なぜなら打たれ慣れていないから。

そんなことを思いつつ、なんだか泣きたくなって来た私の表情にギョッとしたらしいクラスメートは慌てて手を振る。

「じゅ、純子ちゃん!?違うよ!?馬鹿って言ったのは山田にだからね!?ほら馬鹿山田!早く純子ちゃん離せアホ!」
「ハイターッチ!」
「ハイターッチ!じゃねーわよ届くわけないでしょボケ!!」
「馬鹿かアホかボケかどれか一つにしてよ。とりあえず、バスケは身長がモノを言うから。ボクタチ頑張りまーす、って。ね?」

そう言って後ろから顔を覗き込まれ、私は慌てて頷いた。

「ジュンちゃんも頑張るってさー。て言うか大丈夫だよ、ジュンちゃんトイレですごい気合い入れてたから」

っ、聞かれてた……!?

つか、あんたいつからトイレ居たのよ!?

「私は出来る、大丈夫、出来る……って言いながらトイレに入ってったとこ辺りからかなぁ」
「最初からかよ!」

うわー、うわー、聞かれてたとか!
サイアク、死ぬ……!恥ずか死ぬ……!!

いっそ頭を抱えたくなった私だけれど、そんな私を見たクラスメートは俄然やる気を増したように拳を握り締めている。

「やれる……!うちは純子ちゃんさえ居ればやれるわよ……!」

そんな期待されても困るんだけど……。

ピーッ!

そんなことを思っている私の耳に届いた、甲高い笛の音。
どうやら一試合目が始まるらしく、進行スピードを重視する体育の先生が大きな声で収集を掛けていた。

「一試合目ってどこからだっけ?」
「うちのクラスの男子は確か一試合目だよ。ね、そうだよね山田?」
「うん。……ねぇ、ジュンちゃん」

なんですか。

「僕がもしダンク出来たらジュンちゃんの体操着撮らせてくれませんか……ぁ、大丈夫だよ悪いことには使わないから!ただ僕が個人的に楽しむ用にするだけだし!」
「出来ることならそれを『悪いこと』に入れてほしかったわ」

早く行け、アホ。
そう言って背中を叩いたら、山田は嬉しそうな顔をしてコートのある方へと走って行った。

そうしてそんな背中が遠ざかると、それまで黙っていたクラスメートは私の肩を小さく叩いて、振り返った私にヘアゴムと櫛を持ち上げて見せる。


 
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