短編小説3

□携帯灰皿
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追い掛けても、追い掛けても。

ちっとも縮まらない、あなたとの差。

着てるお洋服も。
立ち居振る舞いも。

何もかもが違う、私とあなた。

お洋服を変えてみた。
お化粧だって頑張った。

お仕事だってがむしゃらに頑張って、愚痴だって、弱音だって、あなたを見習って我慢して。
あなたみたいになりたくて。

それでも。

あなたはずっとずっと、私より遥か先を……遠くを、歩いてる気がして。

少しでもあなたに近付きたくて。

だから、もっともっと頑張らなきゃって。

くたくたの足を鞭打って、走ろうとしたら派手に転んで。

もう走れなくて。

どうしたら良いか分からなくなって。

そうして泣きじゃくるしかなくなった私に、あなたは言ったんだ。

「急がなくて良いよ」

ゆっくりゆっくり、私の頭を撫でながら。

「待ってるから」

どこか、嬉しそうに微笑んで。

「ゆっくりおいで」

抱きしめられた温もりは。
背中をぽんぽんとあやしてくれた大きな手は、確かにその人のあたたかさで。

「ずっと、ここに居るから」

……あのね、おじさん。

ごめんなさい。

こんなにも近くに居てくれること。

気付かなくって、ごめんなさい。













『鬼ごっこ』
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