短編小説3
□コーヒー&チョコレイト
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甘いものは大好き。
だけど、甘いものばかりは食べられない。
たまには違うものが食べたくなる。
苦いものとか、スパイシーなものとか欲しくならない?
……つまりはこれってそゆこと?
『コーヒー&チョコレイト』
私には二人の幼なじみが居る。
一人の名前は市村春臣。
眉目秀麗、成績優秀、文武両道で古武術なんかやっちゃってて、同い年と思えないくらい落ち着いてて大人で、責任感もあるから生徒会なんかに入ってる。
みんなが言うには、あの黒髪と眼鏡をちょっと変えればもっと爆発的にモテるんじゃないかって話だけど、あんまり女の子には興味無いみたい。
ちょっと真面目過ぎるくらいのハルくんは、マンションの左隣に住む幼なじみ。
もう一人の名前は櫻井あかね。
明るい茶色の髪と、体の至るところにたくさん開いたピアスがトレードマーク、それでもどこか不良にもなりきれない。
ころころ変わる表情と多彩な引き出しを持つ彼は学校の人気者でムードメーカーなんだけど、見た目に反して実は純情、そして誰よりも優しい。
自分の名前にちょっとコンプレックスを持ってるらしいあかねちゃんは、マンションの右隣に住む幼なじみ。
そんな二人は私と同い年で、私達のお母さんはみんなキャリアウーマンでみんな仲良し。
と言うか、ハルくんとあかねちゃんのお家にはお父さんが居なくて、うちにはお父さんが居たから、二人は小さい頃はほとんどずっとうちに預けられてたんだよね。
だからもう兄弟同然って言うか、なんて言うか。
少なくとも。
「ドキドキしたりはしない」
「えぇー、うっそだー」
「うそじゃないって」
お昼ごはん明けの5限目。
ぽかぽかと暖かい陽射しに照らされながら、それでもだだっ広いグラウンドの吹きっ晒しで体操着の半ズボンはキツい。
お昼ごはん後の5限目、更にはこんな気候でよくそんだけ走り回れるなぁ、あかねちゃん。
そんなことを思いながら、少し遠くのサッカーコートで走り回っている茶色の頭を見つめた。
「あんな櫻井見て格好良いと思わないの!?あいつは間違いなく自分のことを格好良いと思ってやってるわよ!?」
「格好良いとは思うよ。ただドキドキしたりはしないってだけのことで」
「うそだ!全然うそ!」
そう言って私の隣で騒いでいるのは同じクラスの『タニー』こと谷口菜々子で、私はそんなタニーに「そんな嘘ついてどうすんの」と笑い返す。
「じゃあ生徒会長のことは!?」
「ハルくんまだ副会長だよ?」
「知らないの?市村くん『会長』ってアダナじゃん」
……どんだけなのハルくん。
「とにかく!あんたの美的センスは狂ってるわよ茅乃ちん!」
「狂ってないよ。二人ともちゃんと格好良いとは思ってるし」
「いいえ狂ってるわ!じゃなきゃあんな二人に囲まれてあんたが普通に生きてられるはずないもの!!」
「……ひどいよタニー」
そりゃ私はツラもアタマも平均、下手したら中の下だけども。
もうそういうコンプレックスとか劣等感とかいうやつとは小学校高学年辺りでさようならしたんですよ。
「とーにーかーく!!ハルくんとあかねちゃんはそういうんじゃないの!!」
「……なるほどねぇ。だからこそ変に焦ってんだ、ヤツらは」
「焦るぅ?誰が焦ってんの?」
「…………やっぱ、あいつらのせいでセンス狂ってるわ、茅乃ちゃん」
「だから、何が狂って、」
更に食い下がろうとした私の声を、ピーッ!という甲高い笛の音が遮る。
どうやら男子の試合が終わったらしい。
「勝ったみたいね、あかねちゃん」
「なんで分かるのよ」
「勝った時の顔してるもん」
「……お前らもう結婚しろよ」
タニーがそうやって私をからかうのはいつものことだから気にしない。
「なーんて、会長が許さないよね」
そう、いつものこといつものこと。
「茅乃ちゃん」
「なんスかもぉー」
「気ぃ付けなさいね」
……なにが?
見上げたタニーこと谷口菜々子は、午後の柔らかな日差しを浴びながら、どこか不敵にも見える笑顔でニヤリと笑った。
「ヤツら、かなりキテるから」
「キテる?なにが?」
「あんたは甘いのに慣れすぎて、舌がバカになってんのよ。ぶぁーか」
「なんですって!?バカって言った方がバカなのよ、この魅惑のEカップ!!」
「うるさいわね、このちょいカワ素朴少女!!」
「タニー大好き!!」
「私も茅乃ちゃん大好きだけどアイツら怖いから……ッ、ゴメンよ茅乃!!」