短編小説3

□ハンサムな彼女
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まぁもちろん俺が店に居た頃は、俺が湖子を守っていたさ。
て言うか一緒に住んでんだから自然とそうなるわな。

じゃあ、なぜ今日は一緒に帰らないのか。

「俺がこれから響ちゃんとデートだからです!」
「いきなりどうしたクソ兄貴」

ついにアタマ湧いたかー?なんて聞いてくるクソ妹の言葉なんかどうでも良い。

俺はついに成し遂げたのだから!!

響ちゃんとの!!

深夜デート的な約束を!!

「……兄貴、すげえ悪いカオしてる」

思わず顔がニヤけていたらしい。

初めて会った日に偽造した(と響ちゃんは言い張る)例の写真を使って脅しを掛け、ハイジのようなまあるい頬に悔しさを滲ませたまま小さく「行けば良いんでしょう、行けば」と呟いていたことはさて置き、とりあえず初デートである。

ニヤけてしょうがないのは仕方がない。

「めっちゃ悪いカオしてるよ兄貴」
「ライト・ヤガミもびっくりですね」
「藤原竜也?」
「そこは漫画のままで言ってほしかったところです」
「おれ何気に藤原竜也さん好きだわー」
「キィー!湖子さんの浮気者!!」

そんなバカ2人の会話は最早どうでも良い。

正直、今の俺の頭の中は響ちゃんのことでいっぱいなのだから。
もうティーンエージャーかっつーくらいのリリカルさである。

しかしそんな心境を恥ずかしいと思う年齢ではないので幸せは分け合いたい。

俺は幸せだと世界中の人達に知らしめたい。

世界の中心で遺骨をバラまきたい。

が、今は無理なので我慢してこいつらに幸せアピールをすることにする。

「んん桃色のっ、かたおもー…………ぁ」
「片思い、だろ。遠慮せず歌えよ兄貴」
「カタオモーイ、コイシテール」
「ツッコミ云々の前にさ、まさかのド音痴とか今更そんなキャラ出されても俺達困るだけだわミツナリ君」

そんなバカなやり取りをしている間に、時計の針はいよいよ待ち合わせ時間20分前を指し始めた。

待ち合わせ場所はBlue Roseを出てすぐの交差点だが、こんな時間帯にこんな歓楽街であんなハイジみたいな女の子を一人で立たせておくわけにはいかない。

俺は椅子に掛けていたジャケットを掴んで立ち上がった。

「じゃ、俺もう出るわ」
「おー、行って来い行って来い。なんだったら朝帰って来い」
「ええ、ほんともう帰ってくんなですよぅユウヤさん」
「てめえミツナリ……ってお前!!湖子送ったらさっさと帰れよ!?上がんなよ!?俺の買った部屋で汚らわしい行為に及ぶことは許さねぇ!!」
「しょうもねぇこと言ってねぇで早う行けバカ兄貴。もう結構イイ時間だぜ」

どうしてこいつらと遊んでいるとこんなに時間が早く経つのか。
妹の助言に礼を言い、俺は慌てて店を出た。

昼間よりは少ないとは言え、それでもこの時間を思えば決して少なくは無い通行人を避けながら歓楽街の夜道を歩く。

煌めくネオン。
派手な服装の人々。

夜空の星すら見えないネオンの明るさに、最早慣れてしまった少量の息苦しさを感じながら到着した待ち合わせ場所。

そして。

2分も待たないうちに、彼女は現れた。

「…………こんばんは」

ずいぶん幼く見えるちいさな体に、年相応らしいシックな服を纏った響ちゃんはどこかアンバランスで、でもそれがいやにエロティックな気がして。

相変わらず悔しそうに歪んだまあるい頬を見ていたら、なんだか本当に好きだなぁなんて思ってしまったりとかして。

好きになった理由もよく分からなけりゃ、嫌われてる自信もあるってのにさ、なんかホッとしてしまうわけで。

さっきまでの息苦しさなんてとっくに忘れていた。

なんてことを考えていたら、どうやら俺はフリーズしていたらしい。

「……ぽかんとしてないで何とか言ったらどうなんですか」

そんな不機嫌を隠しもしない響ちゃんの声に、俺はやっと我に帰った。

元とは言え、とりあえずNo.1ホストを張っていたこの俺が!!
言葉が出て来ないなんて!!

顔には出ていないと信じたいが正直死ぬほど恥ずかしい。
しかし言葉が出て来ないもんは仕方ないので、プライドなんかティッシュで丸めてゴミ箱に捨ててやるさ。

ミツナリ、お前の持ちネタいただきます。

「あー、響ちゃんは今日もアレだね、あのー……メガスケバスマエリトロクラミス?みたいに綺麗だね」
「…………なんですかソレ」

ぁ、やっぱ意味分かんねぇよな。

「メガスケバスマエリトロクラミス、そんなに綺麗な花じゃないですよね?イヤミですか」
「え!?知ってんの!?」


 
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