短編小説3

□white
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「はは、そんなに緊張しないで。俺まで緊張しちゃう」
「っ、は、い」
「真っ赤になってかわいいね。初めてしたみたい」

みたい、じゃないもの。

それは言葉にはならなかったものの、周りには十分に知らしめてしまったようで。
ベッドを囲む男の人達や、お兄さん達が少し動揺したのが分かった。

「……セックスは?したことある?」
「な、い……です……、」
「…………ちとせちゃん、いくつ?」
「……はたち」

だめなのだろうか。
初めての人間が、人に見せられるようなセックスを出来るはずが無い。
その道理は分かるから、理解出来る。

……へんな話だ。

こんなに嫌なのに、借金を返せないと困る、という気持ちのせいで不安になる。

わたしはどこまで落ちるのだろう。

「ごめんなさい……」

ぽとり、と落ちた言葉は、唖然としていた周りの時間を動かすには十分で。

「……どうして謝るの?」
「だって、わたし……なにも、知らないから、なにも……できな、い」
「…………ちとせちゃん」

こっち見て。
そう言って、先程よりも乱暴に引き寄せられた顔。

向かい合ったその人は、わたしの腰をゆるやかに撫でながら。

それでも、さっきとは少し、違うかおで。

「あやまらないで」
「……でも、」
「ちょっと、燃えてきた」

そう笑ったその人の目は深い深い、栗色で、吸い込まれそうで。
周りに人がいることを忘れそうになる。

「少し口開けて」
「……こ、う?」
「うん。ちょっと舌出して」
「…………」

舌の下が攣りそう。
わずかに痺れる舌に気を取られながら、こう?と聞こうとしたわたしの唇を塞ぐ、柔らかいそれ。

さっきまでと違い、呼吸を奪うように舌を絡められて、嫌でもぞくぞくとした感覚が襲って来る。

「……っ、お兄さ、くるしい、」
「お兄さんっての、なかなかいいね」

いいけど、やっぱ名前がいいな。

「トキ、っていいます」

そう言いながらも、わたしの口の中を掻き混ぜることはやめない。

舐めて、喋って、呼吸して。

純粋に尊敬しそうになってしまった。

「うわ、肌しろ……」
「ぇっ、あ、や、だっ」
「はいはい、隠さない」

プロのこの人と違い、呼吸するだけでもままならないわたしは、いつの間にか外されていたブラウスのボタンにも気付かなかった。

晒された白い下着に顔が熱くなる。

そして、そこを真っすぐに捉えてくるカメラに、頭が冷えて。

訳が分からないまま、わたしは胸元を隠そうと暴れた。

「まーた、白とピンクのレースって……期待を裏切らないねえ、きみ」
「や、だぁ……っ」
「ほら、カメラ気にしない。悪いけど、最初はちょっと離れてて。すぐぐずぐずにするから。待って」

眼鏡のお兄さん……トキさんがカメラを構える男の人に何か言って、そしてカメラはわたしから離れて行った。
それにほっとしつつも、安心なんて出来るわけもない。

「ベッド、あがろうか」

促されるまま靴を脱いで、ベッドの真ん中へと誘導される。

と、ぎゅう、と後ろから抱きしめられた。

「はは、まだ震えてるね」
「っ、そんな、こと」
「大丈夫。痛いことはしないから」

耳元で優しく囁かれて、そんなわけないのに、少し安心してしまう。

ほだされる。

だめ。

「むね、触らせてね」
「っ、あ!あ、」
「そんなに脇絞めないで」

後ろから、脇の下から手を回されて、下から持ち上げるように。
確かめるように、触れられる。

「ん、良いサイズと形だね」
「まって、トキさ……っ、まって」
「くすぐったい?」

わからない。

分からないけれど、小刻みに揺すられるたび、どうして良いか分からない熱が集まるのだけは分かる。

「ぁ、あ、っ……あ、」
「……へえ、いいね」
「だめ、まって……っ、だめ、」

訳が分からないまま、体だけが熱くなって、座っていられなくなって。
トキさんの手を引っ掻きながら、体が勝手に前に倒れてしまった。

そうしてやっと、トキさんはわたしを離す。

支えのなくなった体は、くたりとベッドに横たわるだけだ。

いつの間にか、ブラウスは奪われていた。

「ちとせちゃん、大丈夫?」
「はぁ、……はー」

返事が出来ない。

そんなわたしを抱き抱えるようにして、トキさんはわたしの背を枕へと押し付ける。

「タイツ、脱ごうか」

膝にちゅ、とわざとらしいキスをひとつ。

トキさんは慣れた手つきでわたしのタイツを脱がす。
それからスカートも。

ブラに手がかかったところで、さすがにわたしも抵抗した。
しかし、その手もやんわりと下ろされ、深いキスをされる。

そのまま、あらわになった太ももを微かに指先を這わすように撫でられて、ぞくぞくと背筋が震えた。


 
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