短編小説3

□第5話
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前回までのあらすじぃ。

多趣味なことだけが自慢の私、海野亜朝は極々平凡な17歳で女子高生でとある国の王様候補者ぁ。

もう既に平凡じゃないけど気にしなぁい。

外身は童子、中身は思春期、その名も某電気鼠ロットちゃんと城下町を探索に来た私達が見たのは薪屋さんの薪に付いた炎と、言い争う二人の男の人でした……。

そして、なんで今回はこんなにテンションが低いのかと言えばあれですよ、現在進行形でロットちゃんがすごい目で睨みつけて来てるからですよ……。

面倒事に巻き込まれやがってって?

……いやほんとすいません。






















『MT,アーサー』























「この人が……!この薪に火を……!!」
「オレじゃねぇつってんだろ……!!」

そう言って言い争う二人の男と、ごうごう……とまではいかなくとも、確かに燃えている薪。
それから、私を睨みつけるロットちゃん。

……怖ぇえええ!

とか!今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょう私!?

本能的に振り返った場所には、古びた木造りの大きな桶があった。
そりゃまぁ専門的に木を売ってる場所なら当たり前か。

欲を言うなら、水道とホースがあれば一番良いんだけど。
きっと、時代的に無理だろうし。

それでも、水を汲めるものがすぐそばにあったのはありがたい。

私は桶を掴み、少し離れた場所にあった井戸へと駆け寄った。

桶を井戸の横に置いて、時代劇や映画やアニメでしか見たことのない井戸から、見よう見真似で水を汲もうとする。

……が、現実はそんなに甘くはなかった。

「なっ、にこれ……!!重っ……!」

井戸に備え付けられた桶を井戸にほうり込み、いざ水の入った桶を引き上げようとロープを引っ張ったところで、ぎりぎりと手の皮膚が痛むだけ。
荒っぽいロープが手の皮膚に刺さって、情けない話だけど泣きそうになる。

でも、それこそ今はそんなこと言ってる場合じゃない。

「こなくそがー!」

大声を上げて痛みをごまかして、何度か井戸に引きずり込まれそうになりながらも、私は水を桶へと移した。
それを持って、火の点いた薪へと走る。

「おっまえ!さっきからなにバタバタしてんだよ!?」
「火事よ!?まずは火ぃ消さなきゃ!!話しになんないでしょ!?」

ロットちゃんの言い草に若干イラッとしつつも、桶の水を薪にかけた。

ああ、まだ全然だめじゃない……っ!!

火事の時って、逆に水かけちゃダメなんだっけ?
布団かぶせて酸素を無くすんだっけ?

ああもう分かんない!!

少しだけパニックになって、額に浮かんだ汗が増した気がする。
それくらいに、火はとどまるどころか燃え盛り始めた。

勢いがついて来ちゃった感じに。

「ああもうロットちゃん手伝ってよ!!バケツリレーしようよバケツリレー!!」
「んなもんで間に合うかボケ。ちんたらしてたら薪屋なんざすぐ火の海だぞ」
「じゃあどうしろってのよー!」
「わかった!わかったからちょっとお前静かにしてろ!」

そう言ってロットちゃんはまた、初めて会ったあの時みたいに。
私の足を治してくれた、あの時みたいに、ぶつぶつと何かを唱え始めた。

そして。

あの時は感じなかった、なにかが。

今の私にはわかる。

すうっと、空気のなにかが変わる感じ。
ぱちんぱちんと、小さく弾けて、繋がって……空気に漂う見えないナニカを、ロットちゃんは操っている。

そう、感じた瞬間。

ぶわりと吹いた強い風と共に、井戸の水がまるで巨大な蛇のように井戸の底から、私達のいる方へと向かって飛んで来た。

「っ……すご、い、」

一瞬。

本当に一瞬だった。

水がひとりでに火を消し、そして再び井戸へ戻って行くまで。

気が付けば私達はびしょ濡れで、薪の火は消えていて、言い争っていた男のひと二人も呆然としていた。
ただ一人、ロットちゃんだけが少し恥ずかしそうに「仕方ねえだろ、水系も苦手なんだ……」と呟いただけ。

そうこうしているうちに、さすがにこの騒ぎに気付いたらしい街の人々で、この広場はごった返した。

「なに?なにがあったの?」
「火事だったらしいよ」
「珍しいな、最近は無かったのに」
「こんな時期におかしいわよ」
「あの男が火をつけたらしいぜ」
「なんか魔法使いが火を消したとか」
「魔法使いが?王宮からか?珍しいな」
「まさか魔法使いが火をつけたのか」
「この国も物騒になったもんだ」

あー、噂話するのは万国共通かぁー、なんてことを口に出す余裕なんて私には無い。

なぜならば、ロットちゃんが私に凄まじい眼光を飛ばしてくるからです。

「お前はほんっっっとに、コトをややこしくすることしかやらねえな!」

だっ、だってしょうがないじゃん!体が勝手に動いちゃったんだもん!


 
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