短編小説3

□ケモノ×カレシ
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ヒト。

それは、世界で最も優れた知能と技術を持ち、圧倒的な力をもって地上の生物を支配した、二足歩行の生物。

……そんな時代は、とっくに終わりを迎えていた。






















『ケモノ×カレシ』






















ヒト。

それは、時代に取り残された生き物達。

歴史の教科書をめくれば、人間が……つまり、ヒト、と呼ばれる霊長目・類人猿科・Homo Sapiensである我々が、世界を征していたころの記述は残っている。

世界の均衡が崩されたのは、数百年前。

その者達は突如としてこの世界に産み落とされ、当時の世界に住む人間達は恐れ戦いたという。

並外れた運動能力。
非常に高い知能。

見るにも堪えない姿を持った、ケモノ達。

狼や犬、猫、を模した姿をした者達も居れば、鳥やトカゲや蛇のような姿をした者も居たらしい。

それは今も変わらない。

ケモノの目を持ち。
体毛や鱗で覆われた肌。
それでも、人間のように二足歩行で歩き、言葉を話し、5本の指を器用に操る。

彼らは『獣人』と呼ばれ、我々『ヒト』との共存を続けている。

「おはようございます、凜さん」

突然、耳元で響いた柔らかい声。

それに驚いて振り返れば、そこには……赤く大きな目。
そして白くふわふわの長い耳と、まあるいしっぽを持つその人……が、笑顔で私を見下ろしていた。

「ぉ、おはよう……ミツキ君」
「どうしたんですか?朝からそんなに難しい顔をして」
「ううん……なんでもないの」

そう笑いながら手を振った私を見て、普段通りに。
いつも通りに目を細め、薄く優しく笑うそのひと……いや。

その、獣人、は。

ウサギ型、と呼ばれる、獣人の一種で。

私の、恋人……だ。

それは、誰も知らない秘密。

パパもママも、このクラスで同じく学ぶ、その中の誰も知らない。
親友にだって、話したことがない。

なぜならば。

ヒトと獣人の恋愛は、御法度だから。

……だったらどうして、私達ヒトと獣人は、同じ場所で生活させられているの。
同じ学校で、同じ教室で、同じようにして学んでいるの。

…………好きにならないなんて、そんなこと出来っこなかったのよ。

「おーし、授業始めるぞー!」

チャイムの音と共に教室に入って来たのは、スーツ姿のトリ型獣人の先生。

私はぐるりとこの教室を見渡す。

クラスメートは約40人。

そのうちの約7割は獣人で、残りの3割が私達のようなヒト。
この数十年で、『ヒト』はすっかり劣等民族になってしまったらしい。

ちらりと見つめたミツキ君。

細身の大きな体に制服を纏って、背筋をぴんと伸ばして。
背筋と同じくぴんと伸びた、長く真っ白なふわふわの耳を見つめていたら、ふいにミツキ君が振り向いた。

……もう、あなたって人は。

まるで、そんな声が聞こえてきそう。

ミツキ君は少し困ったように瞳を細めて笑う。
穏やかな光を持つ真っ赤なそれが、私は大好きだ。

…………どうして。

どうして、ヒトと獣人は結ばれてはいけないのだろうか。

「遺伝的な問題でしょうね」
「……そんなの、やってみなきゃ分からないじゃないの」
「何百年もの歴史の中で、我々の祖先が実験してないわけがありませんよ」
「…………でも、」

午前中の授業を終えた学校は、昼休みのゆっくりとした時間を迎えていた。

ざわざわと騒がしい空気。

柔らかい太陽に照らされている屋上や中庭は、昼食を取る生徒達で溢れ返っていることだろう。

だけど、私達は……。

獣人とヒトである私達は……、友情以上の感情を持ってしまった私達は、そんな場所には居られない。

薄暗い校舎の裏でお昼ごはんを広げるのが、私達の日課だった。


 
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