短編小説3

□サボテンと花
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平均より少し低めの身長。
わたしより細い腕や体。

高めの声が紡ぐのは、彼なりの愛の言葉。






















『サボテンと花』





















放課後の学校。

部活へ向かう生徒や帰宅を急ぐ生徒でごった返す廊下を、わたしはすたすたと歩く。

目的地は5組のホームルーム教室。

下駄箱までの階段に一番近いこの教室は生徒達の待ち合わせ場所に使われやすいみたいで、その出入り口は人で塞がれてることが多い。

こういう時、普段はあまり意識しない、平均よりも高めの身長がとても便利に感じたりする。

「ひかるくーん」

出入り口を塞ぐ人達の頭の上から、少し背伸びしたまま、目的の人の名前を呼んだ。

そうすれば、わたしより頭一つ分小さい人達は、皆してびくっと震えてわたしを振り返る。
いつものことだ。

それに『へら』と、ひかるくんに「クソほど馬鹿ヅラ」だと言われる笑顔を返してから、わたしは再び彼を呼ぶ。

「ひかるくん、帰ろうよー」
「うっせえ聞こえてんだよデブ」

そう、声変わりしたにも関わらず、平均より高めの声でわたしに噛み付くのは、幼なじみのひかる君。

ひかる君はどうやらクラスの男の子達とゲームをしているらしく、聞こえてる、と言うわりには机から立ってくれそうにない。

焦る様子も見せないとこは相変わらずで、まぁ良いか、とわたしは5組の教室へと足を進めた。

「なにしてるの?」

椅子に座って、机に足を上げたままゲーム機に夢中になっているひかる君に、わたしは尋ねる。

「なんのゲーム?」

後ろから覗き込んだら、なんだか怖い顔をした色取り取りの気持ち悪いモンスターを、みんなで倒してるみたいだった。

通信?と聞いたところで、ひかる君は答えてくれない。
焦ったように、周りに居たひかる君の友達が「そうだよ」と教えてくれた。

「ごめんね、みくちゃん」
「ん?なにが?」
「ひかるを借りちゃって」
「ううん、いいよ、」
「テメェに俺を貸した覚えはねぇよ」
「ッ、おま、ひかる!俺を攻撃すんな!」

どうやらゲームの中でひかる君に攻撃されたらしい。
わたしとお話ししてくれていたひかる君のお友達は、それから必死にゲームに向かうようになってしまった。

カチャカチャ、カチャカチャ。

廊下や教室のざわつく声の他に、ひかる君達がゲームのボタンを押す音だけが響く空間。

ひかる君がわたしを気にしないのはいつものことなので、わたしは誰か知らない人の机の椅子を引いて、そこに座る。

「てめ、ひかる!俺を攻撃すんなって!」
「俺の前に立つ奴は全員敵と見なす」
「ふざけんなよ!」
「オイ、誰かペイントしろよ」
「あ、ホットドリンク無くなった」
「テメェは凍えてな」

……良いなぁ、男の子は。

お互いを罵倒し合いながらも楽しそうにゲーム画面を見下ろす4人を見つめながら、そんなことを思う。

わたしが男の子なら、もっとひかる君にラクな気分を味わわせてあげられたかもしれないのに。

なんて。

そんなことを思い耽っているうちに、ゲームに決着がついたらしい。

最後までぎゃいぎゃいと楽しそうに騒いでいたひかるとそのお友達が、それぞれゲームを鞄にしまって、席を立った。

「待たせてごめんね、みくちゃん」
「ううん、いい、」
「オイ、早くしろよデブ」
「ぁ、うん。ごめんねひかるくん」
「ひかる、お前さぁ……みくちゃんに対してそういう言い方すんのやめろよ」
「デブにデブつってなにが悪い」
「お前がガリガリなだけじゃねぇか」
「あ゛ァ?なんか言ったかテメェ」

……ぁ、なんかやばい感じ。


 
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