短編小説3
□サボテンと花
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ひかる君は自分の身長と体格を、すごくすごく気にしてる。
それを、ひかる君のお友達も知ってるはずなんだけど……きっと、わたしを庇うために言ってくれたんだわ。
じゃあ、わたしがなんとかしなきゃ。
そう、なんだかよく分からない使命感に駆られたわたしは、言い合いを始めそうなひかる君のお友達にさりげなく近付いて、そっと制服の袖を引いた。
「ごめんね、いいの」
「みくちゃん……」
「ほんと、わたし細くはないし……」
「み、みくちゃんは可愛いよ!」
「そうだよ!みくちゃん可愛いよ!なんで彼氏作らないの?」
「そうそう。ひかるなんか構ってないで、もっと遊びなよ」
焦ったようにわたしを褒めてくれたお友達に乗っかって、他の二人もわたしを持ち上げてくれる。
ひかる君のお友達は良い人が多い。
空気が悪くなるのを気にして過剰に褒めてくれてるのは分かるけど、褒めてもらえるのは素直に嬉しい。
ふふー、と顔が緩むのが分かった。
「おいデブ、おつむに咲いた花ばら撒いてんじゃねぇよ」
「へ?おはな?」
「さっさとしろよ殺すぞ」
いつにも増して、ひかる君の言葉が汚い。
顔もいつも以上に怖いし。
ちょっと、いつもと違う感じ。
こりゃ真剣に待ちくたびれてるな。
そう踏んだわたしは、慌ててひかる君のお友達に手を振って、教室から出て行くひかる君を追い掛けた。
「ひかるくん、ごめんね?」
「あ?なにが」
「ううん、なんでもない」
すたすたと、早足で廊下を進む背中。
わたしよりも頭一つ分背の低い、髪を短く切り揃えたひかる君のつむじを見つめながら、わたしはひかる君を追い掛ける。
……わたし達は、幼なじみで。
小さい頃から、わたしの方が体が大きくて。
それは高校生になった今も変わらない。
わたしの身長は172cmもあって、ひかる君は160cmから伸び悩んでる。
わたしの体重は60kgもあって、ひかる君は44kg以上になったことがない。
まさにチワワとグレートピレニーズ。
そう噂されてるのをわたしは知っているけれど、ひかる君は知ってるんだろうか。
そんなことを考えていたら、前後不注意になってしまっていたらしい。
ひかる君の背中にどん、と思いきりぶつかってしまった。
冗談みたいに、ひかる君がよろめく。
ぎら、と吊り目気味な目が、強くわたしを睨み上げた。
「前見て歩けよクズ」
「ごめんね、ひかるくん」
「ぶっとばすぞ」
「うん、ごめん」
「……そんなだから転ぶんだろ」
「うん、心配してくれてありがとう」
「お前耳腐ってんの?」
「もー、そんなことばっかり言わないでよー」
ひかる君は、そそっかしいわたしがよく転ぶのを、すごくすごく怒る。
膝を擦りむくたびに、「次転んだらぶっとばすぞ」とか「頭湧いてんのか」なんて言いながら、消毒してバンソーコーを貼ってくれる。
ひかる君の乱暴な言葉は、彼なりの愛情表現なのだ。
「コンビニ寄って帰る」
「なに買うの?」
「シュークリーム」
「好きだねえ、ひかるくん」
そんなことを話しながら、いつもの帰り道を二人並んで歩く。
ひかる君は、車道側を歩くとか、そういう風にわたしを“女の子”として扱うことをしない。
わたしはそれにほっとする。
だって、きっとひかる君よりわたしの方が丈夫なんだもの。
それが、わたしのコンプレックスでもあるのだけれど。
「ファミリーマート行くの?それともセブンイレブン?」
「シュークリームはセブイレに決まってんだろ」
「美味しいよね、とろりんシュー」
てくてくとわたしが歩く歩幅は、早足のひかる君とほぼ同じ。
そういうのが、ひかる君は気に入らないらしい。