短編小説3

□蓼食う虫が好きスキ!
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自分で言うのもなんだが、俺は当たり障りのない男だ。

3人兄弟の真ん中で、頭も容姿も中の中。

特別面白い話しが出来るわけでもねーけど、ノリが悪いわけでもない。
クラスではしゃいでる中心人物と4番目くらいに仲が良い、そんな中途半端さ。

そんな俺にしつこく構って来る奴なんて、そうそう居やしない。

……はずだった。





















『蓼食う虫が好きスキ!』





















「秋吉くーん!あっそびーましょ!」
「…………」
「うるせえぞ公衆便所」

女子特有の高い声。
ここ一年で聞き慣れてしまったそれに返事をしたのは、その声に呼ばれた俺ではなく、友人のひかるだった。

ひかるは俺より何倍も頭の回転が早い。

隣のクラスからこの女……夏樹三雲がやって来るのは下校時の恒例行事となってしまったとは言え、今だに立ち尽くすしかない俺とは違う。
さすがとしか言いようが無い。

「ひかるくんって秋吉くんと違って冷たいよねぇ、まぁそこがイイんだけどー」
「うるせえキモいんだよ肉便器」
「ふふー、ひかるくんも今度あたしとする?1回2千円で良いよ?」
「いいわ、遠慮しとく。変な病気うつされても困るし」

……穏やかで平和な高校の下校時間に交わされる、不穏な会話。

それをぼんやりと見つめていたら、ふいに夏樹が顔を上げた。
目が合った瞬間、嬉しそうに微笑む顔。

黙ってりゃ可愛いんだけどな、普通に。

「なぁにー?秋吉くんもあたしとやりたいー?いいよいいよー、秋吉くんにならあたしなんでもしてあげるぅー!」

そう言って、夏樹は俺の腕にぎゅうっと抱き着いてくる。
体育の時間に皆がくぎ付けになる巨乳が押し当てられても、俺はすっかり慌てなくなってしまった。

「…………結構です」
「なんでなんでぇ?三雲、秋吉くんにならタダでなんでもさせてあげるよ?SMプレイも放置プレイも、フィストファックでも、なんでもありだよ?」
「やめとけ秋吉、性病は一生モンだぞ」
「失礼だなぁ、ひかるくん。あたし病気なんか持ってないよぉ」
「どちらにせよ、んなビッチとヤったとこで、ぜってーガバガバで気持ち良くねぇよ。じゃあな、秋吉」
「……おう」

凄まじい言葉を吐いたかと思えば、ひかるは鞄を背負って教室から出て行ってしまう。
その先には、廊下で微笑むみくちゃんの姿があった。

……確かにこの会話、みくちゃんには聞かせたくないな、ひかる。

友人の、幼なじみに対する相変わらずのツンデレっぷりに心の中で敬礼しつつ、俺は視線を自分の腕に戻す。

そこには柔らかな感触と共に、さっきと変わらず夏樹三雲が鎮座していた。

「……夏樹、一回放して」
「あたしと一緒に帰ってくれる?」
「べつにいいよ」
「そのままあたしん家で一回やってくれる?あれだったら青姦でも良いんだけど!」
「それはだめだろ」
「秋吉くんのケチー!」

一回くらいヤってくれたって良いじゃーん!なんて叫びながらも、夏樹は俺の腕を解放した。

とりあえずね、教室で青姦とかそういう単語使うのはやめようか?

「いつになったらやらせてくれるのよぉ、秋吉くーん」
「……そんなことばっかり言ってるからビッチとか尻軽とか言われるんだよ」
「実際あたしは尻軽ビッチだもーん」

どの口が言うか。
紡ぐ気も無かった言葉を飲み込みながら、俺は必要な教科書を鞄に詰め込み、斜めがけのそれを肩に掛けた。

「よし、帰るか」
「うん!ついでにラブホ行く?」
「それは行かない」
「秋吉くんのケチー!EDー!」
「うっせ、EDではねーよ」

不名誉な言葉をてきとーに否定しつつ、俺はざわつく教室を後にする。
その後ろを、いつもと同じように夏樹三雲は付いて来る。

何気なく振り返れば、夏樹は嬉しそうにふにゃりと顔を緩めた。


 
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