短編小説3

□2月馬鹿とチョコレート
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冷たい風と、澄み切った空。

2月を迎えた町並みは凍えそうなほどに寒々しいのに、それでもどこか人々は浮足立っている。

主に女の子は、か。

甘いチョコレートに、ピンクのリボン。

2月14日。

その日が近付くたびに内心そわそわしてしまう自分に、なんだか少し笑える。






















『2月馬鹿とチョコレート』





















2月上旬。

京都らしい底冷えと風の冷たさに震える街は、それでもどこか浮足立っていた。

街中に並ぶお店には、色とりどりの箱に、リボンに、可愛いお花。
見ているだけでも楽しいチョコレートのラッピングは、当然、来たる14日に向けたチョコレート会社の戦争だ。

まぁ、そんな捻くれた考えを持つおれがチョコレートなんてもんを買うわけもなく。

きゃいきゃいと可愛らしい声を上げるフェミニンなお嬢さん方を横目に見ながら、おれは大股でがすがす歩きながら職場へと向かうわけだ。

出来るだけ外には居たくない。

寒ぃし、今年は早めらしい花粉が飛んでやがるし。

鼻水は出ねぇんだけど、頭痛くなんだよな……なんて。

ま、職場に行きゃあ、いやがおうにも頭痛と戦うはめになるわけなんだが。

なんでって?

それがおれにもよく分からねぇんだけど、なんか最近アニキと光成がBlue Roseに入り浸ってんだよね。

「だから、ポーズ的にはかめはめ波だ、かめはめ波」
「ゴクウ・ソンの……伝説の……!?」
「ああ、全身の気を高め、集中し、一気に放つ……かめはめ波だ」

……ほら、見てくれよ。

元No.1とNo.2とは言え、もう辞めたはずのでけぇ図体したホスト二人が事務所でかめはめ波出そうとしてんだぜ?

「か、で手首構えるだろ?」
「はい……!」
「め、で腰まで引く」
「はい、緊張しますね……!」
「は、め、で気を高めて、」
「集中ですね、集中……!」
「波、で一気にガッ!と行く」
「勢いも大事ですものね……!」

しかもそのアホ二人が実の兄と彼氏ときてみろよ。

絶望しかねぇよ?

「よし、光成行くぞ」
「はい……はい……!」
「かー、めー、はーめー、」
「ハーッ!」
「出るわきゃねぇだろアホ共がぁああッ!」

それまでは事務所の出入口でじっと見守っていたおれだったが、それ以上は堪えられなかった。

身内が救いようのないアホとかつらすぎる。

そして、思わず叫んだおれの声で初めておれの存在に気付いたらしいアホ二人は慌てるでもなく、嬉しそうにおれへと無邪気な笑顔を向けてくるのである。

「ココさぁん!今ですね、ユウヤさんとかめはめ波の練習を……!」
「おっと光成、湖子には秘密にする約束だったろ?」
「ああ、そうでしたぁ!完璧にしてからお披露目するんで楽しみにしててくださいねぇ!」
「なぁ湖子、わくわくするだろ!?」
「イライラする……ッ!!おらイライラすっぞマジで……ッ!!」
「湖子、生理か?」
「バカですねユウヤさん、生理は終わったばかりですよ」
「うるせぇわッ!」

顔だけは綺麗なアホ兄貴と。
金髪碧眼の見た目はイタリア人、中身はアホ日本人、口調はオカマなおれの彼氏。

……さっきまで街中で見ていたふわふわな女の子達とおれが同じになれないのは、こいつらのせいでもあると思う。

ひたすら頭か痛い。

「お前ら、会社はどうした」
「年明けしばらくはヒマなんだよ」
「ふーん。倒産見えてきたか」
「残念ながらそりゃないな。3月くらいからはまた社畜生活の始まりだ」
「社長が社畜て」
「あたしはそれ以上の社畜になるということですよ……」
「副社長も社畜て」
「でもお昼寝タイムは絶対取るぜ」
「沖縄かよ!」


 
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