短編小説2

□うさビッチ
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「お絹、なんか今日変だよ?」
「変なのはわたしじゃなく宇佐美くんです!それにわたしはお絹なんて名前じゃっ、」
「とりあえずここに座れば良いの?」

そう言って、目の前の男は自らの座るベッドの上を指差す。

ええ、そうですそこに正座なさい!

「はいはい分かりましたよー」

どこか楽しげな宇佐美くんは、にこにこと滑らかな頬を緩ませながらベッドの上に……っ、て!

「ちょっ、ちょっと待って待って待って宇佐美くんッ!」
「キミはほんとに騒がしいねー」
「ちょっと待って絶対動かないで!」

なにが起こったか?

いえ、ただベッドの上に全裸で眠っていたらしい宇佐美くんの体から掛け布団が落ち掛けてるだけですよ。

…………だけ、じゃないッ!

「下着ッ!下着どこですか下着!」
「もー、今更照れなくても昔に嫌ってほど見てるでしょー?」
「昔と変わらぬ姿だと仰有るのなら構いませんけど!」
「あー、それはごめんねー」

あははー、だなんて笑っている宇佐美くんをよそに、わたしは自室の床にくまなく視線を注ぐ。

下着下着……って、無いし!

「宇佐美くんっ!下着をどこへやったんです!?」
「あぁ、今ね、下の洗濯機で洗ってる」
「勝手なことを!」
「良いじゃん幼なじみじゃん。それにさー、」

最初下着の上からサセたから唾液でぐっちょんぐっちょんになっちゃって。

……くらり。

笑顔で紡がれた幼なじみの言葉に意識が遠くなる。

下着?最初?サセた?

……嗚呼、分からない分からない分からない。
わたしには分からない、未知の世界だわ。

「お絹?起きてるか?おきぬー?なんちゃって、えへへ」

でも。

「お絹ぅ?おぉーい?大丈夫かー?」

それがいやらしい意味だってことくらい分かります……ッ!

「おーい、おき、」
「不純異性交友はいけません!」
「先生みたい!っ……てびっくりしたぁ、いきなり大きな声出さないでよー」

いけません。
やっぱりいけません。
このままでは、いけません。

わたしがどうにかしなくては……!

かかか、と頬が酷く火照るのはこの燃えたぎる決意のせいだと言い聞かせ、わたしは問題の幼なじみに向き直る。

でも。

昔とはやっぱり違う、骨格とか。
自分とは違う、薄い筋肉とか。

情事後であろう、あられもないその姿を直視できない。

「お絹ー?さっきまでの威勢はどうしたのー?」

かぁっと頬に、体に、熱がこもって、恥ずかしくて恥ずかしくて顔を上げられない。

「どーしてお絹が恥ずかしがるの」

本来羞恥を感じるべき幼なじみの、楽しげな声に更に羞恥を煽られて。
ぎゅうっと手を握り締めれば、視線の先でスカートにシワが寄った。

「もー、お絹ったら耳まで真っ赤ぁ」
「ぅ、うるさい……です、よ、」
「そんなことでちゃんと彼氏と色々出来てるのー?て、その反応じゃ居ないか」

余計なお世話です。

わたしは、違うんですから。

あなたみたいに、その日会った女の子達と関係を持てるような。
あなたのお相手の女の子達みたいに、その日会った男の子に肌を晒せるような。

そんなのとわたしは、違うんです。

ずっとずっと昔から、あなたを知っていて、学校もクラスもおんなじで。
ずっとずっと、昔から一緒に居て。

だから。

あなたが抱いてきた女の子とわたしは、違うんです……。

だから。

だから、この想いは。

さっきまであなたの腕の中に居た女の子とは、想いの大きさが違うんです。
一緒にされるのは、嫌なんです。

だから。

わたしは、違うんです。

「……はぁーあ、」

羞恥に占領された神経が、重い溜め息を脳に伝える。
思わずびくりと肩が震えた。


 
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