短編小説2

□Japanese is difficult!
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わたくし、齋藤彩音、19歳は。

先日、旧姓“二宮彩音”から“齋藤彩音”に名字を変えたばかりです。

親の離婚?

のんのん、違います。

ただ……まぁ、ちょっと家の事情で。

ちょっぴり早めのお見合い結婚をしただけなんです。




















『Japanese is difficult!』



















にのみ……違った、齋藤彩音、19歳。

私は別段周りの子達と違いのない、ただの女の子です。
まぁ、ちょーっとだけ人より生活水準が高いだけの、ただの女学生。

そんな私の生活が豹変したのは、約ひと月くらい前。

全ては、父のこの一言が始まりでした。

『彩音、お前を齋藤さん家の智也くんにやる約束をしてしまった』

…………お父さん、私はハムスターの赤ん坊じゃないんですよ?

やる、って……。

『つべこべ言わず、嫁に行きなさい』

そんな理不尽な。

しかしまぁ、結婚生活や恋人関係なんかに大して夢を抱いていなかった私は「まぁいいか」とすんなり嫁入りを決意。
こういう結婚もまた良いかもしれないじゃないですか。

相手の智也さんには会ったこともないけれど、男前だって聞くし。
家柄も収入も申し分ないし、お義父さんやお義母さんになる方々は両親と知り合いだっていうし。

下手なお見合いしたり、変な男に引っかかるくらいならきっとこの方が幸せになれるんだわ。

そう思って、婚姻届に判を押したのに。

なのに。

「なんでこんなことになったのよ……」

溜め息と共に吐き出した言葉は、だだっ広い部屋の中で木霊しただけだった。

私がこの家……齋藤家に住み始めたのは、約一週間前。

判を押した婚姻届を父に渡し、結婚式の予定も立てぬままに実家を追い出され、会ったこともない齋藤智也が住むこの無駄にデカい家へと押し込まれた。

って、会ったこともないってことはこれお見合い結婚でさえないじゃない。
騙された。

……そう、私は騙されたのよ!

両親に。
お義父さんに、お義母さんに。

そして。

齋藤智也にも。

「……なーんだかなぁ」

別にモノマネしてるわけじゃないわよ?
本当に本気でなんだかなぁな状況に追い込まれてるんですよ、私は!

私の置かれている状況。

それは。

結婚し、私にとっては新居となるはずだった家での独り暮らし。

「ほんとに詐欺だわ、こんなの……、」

約、一週間前。

それなりの期待と緊張を抱えた私を迎えてくれたのは、無駄に広い敷地を誇る家と、高そうな家具達。
それから、独りきりの空間だった。

……独りきり、というのも語弊があるか。

事実、私は独りきりではないのだから。

「……むしろ独りの方がまだマシ、」
「なにブツブツ仰有ってるんですか?」
「だからあの使用人のことでっ……て、きぁあぁぁぁッ!」

突然背後から掛けられた声。

それに驚いた私は反射的に、寝転がっていた革張りのソファーから飛び起きた。

「な、なな、な、なんっ……、」
「あっは、彩音さんは騒がしいですねぇ」

振り返れば、私を驚かせた張本人。
私に『独り暮らしの方がマシだ』と思わせる原因となった、エプロン姿のその男。

「な、なに、なにしてたのっ!?」
「なに、と申しますと?ぼくは洗濯物取り込んで来ただけですよ?」
「あら、そう……って!あ、あなっ、あなた!それ!」
「どれ?……これ?」
「それよそれ!私の下着……ッ!」

目の前でにこやかに私の下着をつまんで見せる、その男。

「布が少な過ぎますね。これでどこを保護出来ると言うのです?」
「余計なお世話よ!」

約、一週間前。

私を迎えてくれたもの。

無駄に広い敷地を誇る家。
高そうな家具達。
主が……、私にとっては夫が不在であるという、空虚な空間。

それから。

無神経な使用人が、一人。

「そうよ!あなた無神経なの!」
「ぼくはただ、これでは人体に害が及ぶのではないかと……」
「心配するとこおかしいから!」

目の前で未だに私の下着をつまむ男。
約一週間前、ずいぶん嬉しそうに私を迎えたこのエプロン姿のこの男は、この家の使用人。

「じゃあこう言いましょう、ぼくの趣味じゃないです」
「なんであなたの趣味に合わせなきゃいけないのよ!」

あぁ、もう、なんなのこの男……!

旦那さまの留守を預かってる身だかなんだか知らないけれど、どう考えてもこの使用人、出過ぎてる。

普通、使用人は主の嫁の……奥方さまの下着の趣味に口出ししないでしょ!
なんで私があなた好みの下着つけなきゃいけないのよ!

私に気でもあるわけ!?

「……分かってる?私、人妻なのよ?」

そう言いながら、男につままれたままの哀れな自分の下着を引ったくれば、目の前の使用人は酷く不思議そうに首を傾げた。

「…………はあ、分かってますけど?」

首を傾げる、その姿。


 
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