短編小説2

□1+1=こいびと
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お気に入りは半分こ。

そう言って人形さえバラバラにしたオレ達を、実の母親でさえ気味悪がったのに。

「ばかねえ、心臓は左に傾いてるのよ?」

キミは。

ただ、そう。

ひどく無邪気に、笑った。


















『1+1=こいびと』


















不思議なことが起こりました。

「どーした、華子。変なカオして。なんかあったか?」
「……うーうん、なんでもないよ」

でも、このことは人には内緒なのです。

「ん?なに、その封筒」
「……なぁいしょ」
「はぁあ?あいっかわらず意味分かんないわねぇ、あんた」
「内緒だから、言わないの」

内緒だから、言いません。
それは、仲良しのお友達にだって例外ではないのです。

なぜなら。

私の手元にある、淡い桃色の封筒。

これが、れっきとした“らぶれたあ”というものだからです。

さっき中身を確認しましたが、そこには、どれだけ私を愛しているかということが、男の子のものとは思えないくらいに美しく繊細な字で綴られていました。

そして。

普段から『頭のネジが飛んでいる』だとか、『天然で済まされないくらいにデリカシーが無い』だとか、そんな風に酷評されがちな私にだって、さすがにこれを他人に見せてはいけないことくらい分かります。

だから。

この桃色の封筒や、それが引き起こしたこの不思議な現象のことを、私は誰にも相談出来ないのです。

私に降りかかった不思議な現象。

それは、手元にある桃色の……全く同じ桃色の、二通もの封筒が問題なのです。

「…………うーん、」

思わず唸り声を上げてしまいました。

だってそうでしょう?

私の手に握られたのは、二通の封筒。
淡い桃色のそれは、二通とも全く同じ色や形をしているのです。

しかし、それだけではありません。

中に書かれた文章も、一言一句違わず、おんなじに書かれているのです。
更に言うならば筆跡も全く同じで、トドメには差出人の名前も同じ。

つまり。

どう考えても、一人のヒトが間違えて二通もの手紙を私の机に忍ばせたとしか思えないのです。

「……でもなあ、」

ふぅ、と小さく息を吐けば、すっかりホームルームを終えた教室から出て行くクラスメート達に『大丈夫か』と声を掛けられました。
さっきのと合わせて、本日三度目です。
私はそれに、本日三度目の『なんでもない』を返します。

だって、このラブレターのことは内緒ですから。

「……それにしても、」

本当に、不思議です。

差出人の名前は、二通とも“滝沢”と書いてありました。
しかし、あまりクラスメート以外の同学年生に詳しくない私は“滝沢”くんがどんな子かも知らないのです。

お友達に聞きたいけれど、聞けません。

だっていきなり『滝沢くんって何組の子?なに部?どんなヒト?』だなんて聞いたら不自然でしょう?
だから、聞けやしません。

このラブレターのことは内緒なのです……なぜなら、私には今のところ、この“滝沢”くんとお付き合いするつもりなど毛頭ないのですから。
お断りさせていただくというのに、ラブレターを貰ったことをお友達に広げるのはあんまりでしょう?

さすがの私にだって、それくらいのデリカシーは持ち合わせているのですよ。

「…………さて、」

そろそろ良いでしょうか。
滝沢くんの二通のお手紙には、両方とも同じように『放課後、屋上に来てください』とありました。

ふ、と見上げた時計は、しっかりと部活動開始を過ぎた時間を指しています。

『放課後』って、部活動前ってことで良いんですよね?

若干の不安を断ち切り、私は下校準備を整えた鞄を抱えて立ち上がりました。
ほぼ誰も居なくなった教室を後にし、屋上への道を辿ります。

えぇと、屋上への道は……南階段と北階段がありますが、あえて遠回りの南階段を登ることにしましょう。

やはり私も少しばかり緊張しているようです。
心を落ち着けるため、少しだけ遠回り。

のろのろと、決して速やかとは言えない足取りで進む私に、顔見知りの友人達は声を掛けてくれます。
『またフラフラしてんのか』だとか、『玄関はそっちじゃないよ』だとか。

……みんなは私をなんだと思っているのでしょうか?

まぁそんな疑問も、三歩あるけば忘れてしまいますけれど。

そんなことよりも。

「不思議よねえ……」

がさ、と音を立てて取り出した封筒。
全く同じ桃色の、全く同じ淡い封筒。

どうして二通も同じものが?
下書きでもしたのかしら?
滝沢くんってどんなヒトなの?

いまどきラブレターを書いて寄越すような人ですから、きっとどこか時代遅れのオトボケさんなのかもしれませんね。


 
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