短編小説2

□1+1=こいびと
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「わ、っ……と、と、」

取り出した封筒を見つめながら階段を上っていたら、何度か足を引っ掛けてしまいました。
滝沢くんをオトボケさんなどと馬鹿にはしていられませんね。

そんなこんなで階段を上がって行けば、やっとこさ屋上へのドアが見えて来ました。

本来ならば立ち入り禁止の屋上です。
しかし、歴代生徒達の悪巧みと申しますか、汗と涙の産物と申しますか……まぁつまり、隠し鍵があるわけです。

先生達には内緒のそれを窓ガラスの枠から取り出し、鍵を開ければカチリと小気味の良い音。
鍵を窓枠に戻し、私はなんの抵抗も無くなったドアを開け、立ち入り禁止の屋上へと足を進めます。

……あぁそうそう、それから。

鍵を外から閉めることを忘れてはいけません。

「戸締まり、よーし」
「声出し確認?賢明だね」

少し風の強い屋上。
鍵を閉めた私の背に掛けられた、少し高めの声は、風の音と共に私の耳へと流れ込みました。

振り返れば。

私と同じ制服の……いえ、同じと言えば語弊がありますね。
だって私と同じでは、スカート、ということになりますもの。

訂正。

振り返れば、私と同じ学校の制服を身に着けた少年が、私ににっこりと微笑みかけていました。

…………えぇっと?

「タキザワ、くん?」
「はい、滝沢です」
「ぁ、どうもご丁寧に。綾部華子です」

ぺこりと頭を下げられて、反射的に頭を下げ返せば、頭に降って来るくすくす笑い。

……なんですか?

「私、なにかした?」
「ううん?……ただ、」
「……ただ?」
「やっぱり面白いなと思って」

ふ、と最後に小さく笑った滝沢くんは、いきなりその瞳に真剣を纏わせて、私を真っ直ぐに見つめて来ます。

「綾部華子、みんな知ってるよ」
「…………?」
「美人、秀才、カリスマ、だけどヌけてる、変人。天然じゃ済まされないノーデリカシー、頭のネジが吹っ飛んでる」
「あなた本当に滝沢くん?」

私にラブレターくれた滝沢くん?
本当は違うんじゃないですか?

だって。

普通、好きな子に向かってそんなこと言わないでしょう?
べつに私は気にしませんけれど。

「滝沢だよ?滝沢、雷の方だけど」

…………かみなり?

カミナリの方だけど、と滝沢くんは言ったまま、きょとんと私を見つめるばかりです。

かみなり?

なにが、カミナリ?

滝沢くんのよく分からない発言に、私は首を捻ることしか出来ません。
頭を捻ってもなんにも出て来やしませんからね。

……まぁ良いじゃないですか。

滝沢くんは変な人ですもの。
きっと私には分からない思考回路を持っているんだわ。

じゃなきゃ、間違えてラブレター二通も入れないでしょう?

「あのね、滝沢くん」
「ん?なに?」
「お手紙、ありがとう」
「あぁ、そうだったね忘れてた」

滝沢くんは照れるわけでもなく、あっけらかんと私を見つめます。

……やっぱり変な人だわ。

好きな人を前にして、今まさに告白しようっていうのに……全然そんな感じがしないんですもの。

普通、目線合わしづらかったり恥ずかしがったりするものじゃないの?
それともラブレター自体が間違いだったのかしら……。

「お手紙、くれたよね?」
「入れたね、机に」
「私、間違ってないよね?」
「間違いないね」
「間違いはあるのよ、滝沢くん、あなたの過失だけれど」
「オレ?なんか字でも間違ってた?」
「うぅん、達筆でビックリしたくらいだったけどねえ、違うくて」

二通もくれたでしょう?

そう言って、がさりと例の淡い桃色封筒を二通分ポケットから出して、ほら、と見せつければ、滝沢くんは『ぁ』と小さく声を漏らしました。

「ほらぁ、やっぱり、」
「はは!それ、風斗のだ!」
「…………は?」

ほらやっぱり間違ったんじゃない、そう言おうとした私の声は、そんな滝沢くんの楽しげな声で掻き消されてしまいました。

ふうとのだ?

「封筒の……?」
「違う違う、風斗。滝沢風斗」
「タキザワフウト?」

滝沢……って、ことは。

「あなたがタキザワフウト?あなたのってこと?」
「いや、オレのじゃない。オレは滝沢雷斗の方。だから言ったじゃん、カミナリの方だって」
「タキザワライト……?」

あの、すいませんけれど全然話が読めません。

「ぇ、あれ?オレ達のこと知らない?」
「なにが……?」
「あー、なるほどねー……知らなかったらワケ分かんないよね、ごめんごめん。みんなに知られてるなんて自意識過剰だった、うん」

ごめんごめんと呟きながらも含み笑いを止めない滝沢……雷斗くん、は、私の手に収まっている桃色の封筒を指差します。

「こっちがオレの」
「……こっち?」
「そ。そんで、そっちのやつが風斗のだよ、オレの兄さん」
「にーさん?」

ニーサン?なにそれ美味しいの?


 
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