短編小説2
□スマイリー・フェイス
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「馨ちゃんの笑ってる写真って無いよね」
全てはその一言が始まりだった。
『スマイリー・フェイス』
「ほらー、やっぱ無いよー」
「ぁっ!これは!?」
「一応笑ってはいるけど引き攣ってない?これ」
「……こ、これ……とか?」
「それも引き攣ってる。更に言えば顔色サイアクじゃないの」
「見事に笑顔の写真が無いねぇ!このアルバムー!」
そう、キャッキャと笑いながら数冊のアルバムを囲む女子高生を傍目に見ながら、あたしは頭を抱え込んでいた。
「ほんとどこ行ったのよ道行の奴はッ!」
日曜日の午後のことである。
ここはとある全寮制女学院で、その寮の中、わたくし相原馨と東宮道行の部屋であるこの広くもない間取りは東京タウン並の人口密度を誇っていた。
なぜならば、部屋の中にはあたしの他に、クラスメートの蓮見加奈子、椿ぼたん、山本さくらがひしめき合っているのだから。
諸事情により部屋の主であり、あたしの頭痛の原因でもある東宮道行は外出中で……って、奴が外出中だからこそあたしはピリピリしてんですよ。
さっき変な連絡寄越したきり電源切りやがって……!
誰かあいつに携帯電話は電話を掛ける専用じゃなくて受けることも出来るってこと教えてやって!
自分の都合の良い時だけ電源入れるものじゃないって!
「ねー、馨ちゃーん」
「なにっ!」
「もっとアルバム無いのー?」
あぁもうこの忙しい時に……ッ!
道行だけでも手に余るというのに、更にこのフワフワ系女子が三人も乱入して来たってんだから部屋の中はごった返してる。
物理的な意味でもね!
「さっきからなんなのあんたら!アルバムアルバムってお前らはエイベッ●スか!」
「ごめん馨ちゃんそういうのはみっちゃんが居る時にしてくれる?」
「その流され方一番イタイ!」
なにがなんだか知らないけど、1時間ほど前に部屋へと入って来た彼女達はひたすらアルバムを求めていた。
さっきからなにやってんの?
「いやー、みんなで修学旅行とかの写真見てて思ったんだけどさー」
「馨ちゃんが笑ってる写真って一枚も無いんだよね」
「ぜ、ぜんぶ、ひ、引き攣ってる、の」
ちなみに初めの台詞から椿、蓮見、さくらである。
……お前らはヒューイ、デューイ、ルーイか。
「もしくはトン吉、チン平、カン太」
「なにそれ馨ちゃん」
「これが噂のジェネレーションギャップですか!」
「なんだかんだ言って戦争を知らない子供達ですからね……わたし達は。」
「ちょっ、壁作らないで!」
おかしいな、同級生なはずなのに……。
「まぁそれは置いといて、見てよこれ」
そう言って蓮見ちゃんが差し出したのは、さっきから彼女達が取り囲んでいたあたしのアルバム達。
これがなにか?
「見てよ!」
「……見てるよ」
「おかしいと思わない?」
こんなにいっぱい写真あるのに、馨ちゃんが笑ってるやつ一枚も無いの。
言われて見れば確かに、アルバム何冊分もの写真は全て苦笑いのものや、砂を噛んでいるような顔、引き攣り笑いから、顔色の悪いものまであった。
確かに、笑ってるやつ無いよね。
理由は間違いなく今ここには居ないあの女装男だよね!
「蓮見さん、椿さん、さくらさん」
「なんですかー」
「もう一つ、写真の共通点を探してください」
「笑ってないこと以外で?」
「はい」
そう言えば、三人は再びアルバムの写真達とにらめっこする。
「馨ちゃんが可愛くないとか」
「暴言は良くないですよ椿さん」
「仕方ないよ、見劣りするのは。いつも隣にみっちゃんが居るんだから」
「ハスミン!良いとこ気がついたね!」
見劣りするとか聞き捨てならないことを言われた気がするけど、今はそんなことどうでも良い。
事実、みっちゃんこと東宮道行は外見だけは良い男なわけだし。
東宮道行。
あたしの同室者にして精神デストロイヤー。
そして只今行方不明なそいつは男なのに何故か女学院に通っている、変態というオプション付きなのである。
そんな、東宮道行くん。
普段は常にあたしの側を離れやがらねぇのですよ。
だからあたしは笑顔になれない。
「み、道行さん、が、居る、と、笑えな、ぃ、の……?」
「まぁたまに別の笑いが込み上げてくることありますけどね」
「なぁんで?みっちー良い子じゃない」
あんたらはあいつの本性知らないからよ!
基本的に写真撮る時は脚踏まれてるよね。
その顔色悪いやつは背中に蜘蛛入れられたまま笑顔を強制されてたやつだからね。
「なんでそういう嘘吐くのー」
「信じてフレンド!ほんとあいつの外面の良さハンパないからね!」
「……ぁ、中学部入学のやつは笑ってんじゃん。隣みっちーなのに」