短編小説2

□スマイリー・フェイス
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入学式終了5分まではあたしも道行の本性知らなかったのよ。

入学式終了5分後に初めて交わした言葉が『私と同室になれたことを神に感謝するが良い、下賤』だからね。
さすがに変な人だって気づくよね。

「はいはい、そんな道行サマは今どこにいらっしゃるわけ?」
「絶対信じてないよね?ねぇ絶対信じてないよね?」
「変な電話掛かって来たって、なんだったのよ?」

さっきの会話は完璧に流されたらしい。

てゆーか最近こいつら道行に毒されすぎだと思うんだけど。
ほら見ろさくらもビクビクしてる。

「さっきの電話はねぇ、なんか『私は今どこに居るでしょう』とか言って切れた。んで、もう繋がらない」
「……ぇ。なにそれ大丈夫なの?誘拐とか……、」
「あんなふてぶてしい男を誘拐する奴居ないでしょ」
「前から思ってたけど、いくらみっちゃんが身長の高い美少女だからって『男』とか言って虐めるのは良くないと思うよ」

頼むから早く誰か気付いてくれ!

あいつ男なんだって!

ピリリ、ピリリ!

そんな、言葉に出来ない気持ちを噛み締めるあたしの耳に突如響いた機械音。
部屋に反響したそれに驚きつつ、あたしは手の中の機械に視線をやった。

決して大きくはないあたしの手の中に収まるサイズのそれは、ずっと愛用しているあたしの携帯電話。
ディスプレイには『大魔神』の文字。

「なに?誰から?」
「大魔じ、……道行から」

一気に高鳴る心臓を治めつつ、電波の良い玄関方面へと向かう。
ちなみに高鳴る、ってのは少女マンガの“ドキンッ”とは全くの別物なので間違わないように。

「もしもし」

スライド式のそれを通話出来るようにし、耳を当てれば、耳に流れ込む外の音。
ガタンガタンと、後ろで電車のような音が聞こえた。

そして、そのあとに響く低い声。

『おい雌豚、今どこに居る』
「どこって……寮」
『呆れたな。まだ出てないのか』
「出るって……なにが?」
『さっき“今どこに居ると思う”と言ったろう。何故探しに来ない』
「んな暗号みたいな会話で分かるか!」

世界はあんた中心かい!

『当たり前だろうゴミ虫風情にプライベートがあると思うなよ』
「さすがっスね道行さん」
『あと、私のアドレスを妙な名で登録するのは止めろ。今度は何か、大魔神か?』
「見たの!?」
『今回は見とらん。まぁ、見なくとも貴様の思考くらい読めるからな』
「それは素で凄い!でも“今回は”って言ったよね!やっぱ前に『ご主人様』で勝手に登録し直したのお前だろ!」
『蛞蝓が』
「え?ごめんね馨ちょっと耳が聞こえなくなっちゃったみたい今なんて言ったの」
『電話だからと調子に乗るなよ。帰ったら談話室で犯すぞ』
「なんかほんともう生きててすいません!」

なんでこいつと喋るとこんなに疲れるんだろうね……。

なんか後ろで蓮見ちゃん達も盛り上がってるしさー。
なんか名前呼ばれてる気がするけど……ま、いっか。

『なんだ?誰か居るのか』
「あー……うん、蓮見ちゃんとか」
『ベッドの下に調教機具が隠してある。せいぜい死守するんだな』
「んなマニアックなもんいつの間に入荷したのよあんた!つか見つかってもあんたが恥ずかしい思いするだけでしょう?あっは、いぃきみ、」
『もう一度言ってやろう。“相原”と記入された袋に入れて隠してある、せいぜい死守するが良い』
「余計なことをッ!」

見つかったらあたしが変態扱いじゃないの!

『そういうことだ。まぁそれは良い、さっさと出発の準備をせんか』
「相変わらず話通じないよね。なに?電波が悪いのかなやっぱ?あれ?おかしいな三本立ってるのに」
『黙れ雌豚。良いか、5分待ってやる。5分で来い』

あのちょっと待ってください!
学園の敷地から出るだけでも5分以上掛かるんですけど!

『……まぁ私も鬼では無いからな』
「鬼も逃げるわよ」
『よし、譲歩してやろう。1時間だ』

どうせ譲歩ったって1、2分でしょ、だなんて思ってたあたしは拍子抜けした。

1時間?

あの道行が1時間待つって?

んな馬鹿な。

「1時間待ってくれるの?」
『寝言は寝て言え。』
「ですよね」

じゃあ1時間ってなに?

『1時間だ。1時間のうちに、』

私を捕まえてみせろ。

そう、珍しくも“楽しくて仕方が無い”とでも言わんばかりの声を出す道行はあたしの頭が追いつかないスピードでルールを説明する。

『1時間やる。そうだな……1時間後、午後4時までに私を捕まえられたら貴様の勝ちだ』
「ぇ、ちょっ……、まっ、」
『逃げ切れば私の勝ち。どうだ、楽しそうだろう?鬼ごっこだ』

鬼ごっこて。
ガチモンの鬼捕まえろってか。

なんか昔のアニメで見たなぁ、鬼が鬼から逃げる鬼ごっこ。
角掴んだらタッチってやつ……あれ、なんだっけ。

全く違うことを考えるあたしの耳に流れ込む、笑い声。


 
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