短編小説2

□If,to me...?
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なぁ、もしも。

もしもオレが『 』なら。

あんたはオレを愛してくれた?






















『If,to me...?』






















オレはいつだって普通だった。

普通にみんなと同じものを食べたし、学校へも通ったし、中学の頃の馬鹿なクラスメート達と同じようにエロい妄想だってする。

恋だって普通にした。

同じクラスのナントカちゃんだとか、テニス部のナントカちゃんだとか。
乳のデカいナントカ先輩だとか、新入生のナントカが可愛いとか。

外見が真面目そうに……というか、そういう風に見えないせいでストイックだと思われがちだが、シャツから下着が透けて見えりゃあオレだってテンションくらい上がるさ。
周りと何一つ変わりゃしねぇよ。

そんなオレに初めて彼女が出来たのは、高校一年の時のこと。

隣町の高校に通う一つ年上の綺麗なひとだった。

長い黒髪に、決して身長の高くないオレより少しだけ低い身長。
華奢な体からはやけに良い匂いがして。

好きだった。

その頃のオレは既に実家を出て学校の寮で生活してたから、近所と言えども他校生のあいつと会うのは難しかった。
それでも、少しだけでも、時間を作って会うほどに。

好きだった。

彼女が面白半分でオレと付き合ってるのはなんとなく分かってたし、それに…………いや、まぁ良い。

オレ達は恋人同士だった。

休日は時間さえ合えばいつも一緒に出掛けたし、呼ばれりゃ例え夜だって寮を抜け出して会いに行った。

好きだったから。

好きだったからいつだって会いたかったし、いつだって触れたかった。
……普通のことだろ。

だけど。

彼女はたぶん違ったんだと思う。

なんとなく分かってた。

それは、身長が低いのを気にしているオレのためにやめてくれていたハイヒールを履きだした時や。
デートの最後、行き着いたラブホテルでどうしてもうまくコトに及べないオレを見る目が変わった時。

分かってたよ。

分からないふりをしてただけだ。

『…………ごめん』

生温い空気に包まれた、セックスするためだけに存在する広くもない部屋の中で。
熱を持て余したまま俯くオレに、あんたが『気にしないで』って、そう、服を身につけながら曖昧に笑うたびに。

分かってたよ。

オレじゃ、駄目なんだって。

『…………ほんと、ごめん』

でもさ、たまに思うんだ。

もし。

もし、オレがあんたを満足させられたら。
もし、オレの体がちゃんと思うように機能して、あんたを絶頂へと導けたら、あんたはオレに笑いかけてくれた?

曖昧な笑顔なんかじゃなくて、もっと心からの笑顔で笑ってくれた?

もしオレの身長が、あんたが気兼ねせずにハイヒールを履けるくらい高かったら。
もしオレの体が、あんたを孕ませられるように機能していたら。

あんたはオレだけを愛してくれた?

……なんて、女々しいことを思う自分が嫌いでたまらない。

本当は、分かってたのにな。

だから。

「ごめん、好きなひと出来た」

だから、そう言ってあんたがオトコを連れて来た時も、大して驚かなかったんだ。

「……だから?」
「だから、別れて」
「…………分かった」

別れてもなにも、最初からあんたはオレと本気で付き合うつもりなんて無かったんだろ。

生憎な、さすがにそれが分からねぇほど馬鹿じゃねぇんだ。
あんたが思うほどな。

「なぁ、付き合ってたのって、ほんとにこいつなの?」
「ちょっと……やめてよ、」
「……へぇ、マジだったんだ」

さっきまでは彼女だった女が連れて来た男は、好奇の感情を隠しもせずにニヤニヤと嫌な視線でオレを見下ろして来る。

言葉の通り、到底オレでは手の伸ばせない高さにある目の前の男の顔。
……殴ることすら出来やしねぇ。

男の肩辺りにある、女の頭。

二人は誰が見てもお似合いのカップルだった。

オレなんかと、違って。

「……ごめんね、あの、私、」
「いいよ、べつに」
「……でも、」

べつに良いよ、そういうの。

もう、良いから。

分かってたから。

だから。

「悪いけど、出てってくれ」

ここはべつにオレの部屋ってわけじゃない。
ただの喫茶店だし。
だからまぁ『出てけ』ってのもおかしいんだけどな、はは……。

だけどさ、もうこれ以上なっさけない姿晒したくねぇんだよ。

だから、さ。

「出てけよ」

頼む、目の前から消えてくれ。
頼む、これ以上惨めにしないで。

頼むから。

「……ごめんね、じゃあ、」

そう言って、少し前までは彼女だった女と、それにお似合いの男は二人で店から出て行った。

……オレは、普通の恋をしたはずだった。

綺麗な髪が好きで。
柔らかい声が好きで。

恋をしていた。

好きだった。

……すき、だったんだ。

「……ッ、く、」

彼女の背を見失った瞬間、じわりと視界が滲んで。
鼻がツンとして、平行感覚が無くなって、頭がくらくらする。

目から零れ落ちた涙はプライドが許さないからごまかした。

泣くな。
泣くな。

男だろ、泣くなよ。

あいつなら泣かねぇよ。
あの、身長の高い新しい恋人なら。

……なぁ、一つ聞いても良い?

もしも、もしもさ。

もしもオレの身長がもっともっと高かったら、あんたはオレを愛してくれた?
もしもオレの体がもっとあんたと深く繋がれる造りなら、あんたは本気で恋をしてくれた?

あんたにとってはただの遊びだったかもしれないけど、オレは本気だったんだ。

なぁ、……もしも。

もしも、オレの体が男のものなら。








オレが女じゃなかったら、あんたはオレを愛してくれた?































END.



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