短編小説2

□眠れぬ森の美女
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不眠症のいばら姫。

話が進まないのはご愛敬。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
【眠れぬ森の美女】
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「お前さぁ、」
「なに」
「いいかげん寝ろよ」

とある小さな王国。

その小さなお城のてっぺん、この王国の小さなお姫様は、今日も眠れずにぼんやりと星を眺めているのでした。

「寝たいわよ私だって」
「お前が寝なきゃ俺やることねぇじゃん。お前が16才の誕生日に糸紡ぎの針で眠りにつかなきゃ、俺は茨に覆われた城に乗り込めねぇじゃん」
「ネタバレどころの話じゃないわね」

そう、お姫様はいばら姫。

16才の誕生日に魔女の呪いにより100年の眠りにつく予定だったのです。

「お前いくつになったよ」
「じゅうごちゃい」
「嘘つけ。んなトウの立った15がいるか」

しかし、お姫様は健在です。

こうなれば、眠りについたお姫様を起こす予定であった王子様もやることがありません。
職を失う危機を感じた彼は、こうして夜な夜なこのお城に忍び込んでは彼女を寝かしつけようと奮闘しているのです。

「つかお前、ちゃんと糸針触ったか?」
「とりあえずは触ったよ」
「どうだった」
「ちくっとしたけど針が折れた」
「お前の指先どんだけ硬ぇんだよヒクわ」

一国の王女である彼女ですが、趣味がギターの弾き語りがゆえの悲劇。
ギタリストの指先は皮が厚いのです。

泣きながら国へと帰って行った魔女の針ですら、彼女を眠らせることが出来なかったのです。

「羊でも数えろ、羊でも」
「羊が六万七千五百二十三匹……羊が六万七千五百二十四匹……執事が六万七千五百二十五人……」
「くそっ、このブルジョアが」
「セバスチャンの月給は六万七千五百円……」
「ちょっ、おま……安ッ!アルバイターかセバスチャン!ハローワークへ駆け込めセバスチャン!」

お前の父ちゃんド鬼畜な、と呟きながら、王子様はお姫様にホットミルクを差し出しました。

「ありがとう」
「それ飲んで寝ろよ」
「うーん、まぁ努力はしようかな」

ずずずずー、と盛大な音を立て、お姫様はホットミルクを啜ります。

「お前……本当に一国の姫か」
「まぁゆとり教育世代なんで……て言うか、このホットミルクすごい味がする」
「睡眠薬入れてみました……一箱分」
「毒味役を挟むべきだったわね……まぁ良いや、飲む」
「飲むのかよ」

全てのホットミルクを胃へと流し込んだお姫様は、のそのそとベッドに潜り込みます。

「寝るのか。寝れるのか」
「寝る、けど……たぶん1時間くらいしか寝れないと思う」
「ばーさんかお前は」
「じゅうごちゃいでちゅ」
「そんなトウの立った15才が……って、」
「ぐう」
「寝るのかよ」

瞬時に眠りについたお姫様。
しかし、眠りが果てしなく浅い彼女は、いつものように1時間もしないうちに目を覚ますのでしょう。

王子様は小さくため息を吐きました。

「仕事させてくれよ、お姫さん」

極自然的な流れでお姫様に口づける王子様。
男として最低な行為を働くことにも、彼はすでに慣れています。

しかもお姫様は目を覚ましません。

「ぐう」
「起きてんのかお前」
「ぐう…………サナダ、サナダ……、」
「寝言?ユキムラ?」
「サナダ……ムシ……」
「……そっちか」

こうして今日も、小さな王国の夜は更けて行くのでした。

ちゃんちゃん。








完.

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