短編小説2

□北斗くんと姉の親友
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まず、ここはどこだ?

都内の某高級住宅地の高層マンションの一室だ、この秦伊織とかいう男の持ち物の!

なぜわたしはここに居る?

一年前に、養護教諭として働く姉ちゃんの転勤が決まり、姉ちゃんはこの近くの学校で働くことになった。
とてもじゃないが自宅からは通勤出来ないということで、姉ちゃんは家を出て行った。
取り残されたわたしは必死こいて姉ちゃんの働く私立高校受験して合格して、さぁ今年からは姉ちゃんと同じマンションから姉ちゃんと同じ学校に通うんだ!

ってなわけでやって来た、このマンション。

…………つまり?

「ね、姉ちゃんは、こ、こ、ここここ」
「北斗くんたら鶏のマネが上手ねぇ」
「こ、ここ、ここから、が、学校に……か、通って……る、の?」
「うん。」

ここから学校に。
ここから、学校に。

ここから。

ここはどこ?わたしは誰?

ここは、秦伊織のマンションで。
わたしは、秦伊織のマンションで秦伊織と同棲中の姉ちゃんの妹です。

・・・・・・。

「うおぁあぁあぁぁあぁッ!」
「どうしたの北斗くん!?」
「うあぁああぁぁあああッ!」
「なんだ、彩女の妹は癇癪持ちなのか?」

同棲?

許さん!

同居?

いやそれでも許さぁあぁァんッ!

「あんた、秦とかいった?」

姉ちゃんのことになるとアツくなり過ぎるのが悪い癖だと、成績表の備考にまで書かれた過去はダテじゃない。
わたしは目の前にあるテーブルに足を乗り上げ、向かいに座って涼しい顔をしている秦伊織の胸倉を掴んだ。

「姉ちゃんに妙なことしてないだろうな」
「あらあらダメよ北斗くん、テーブルに足を乗せちゃ」
「そこか彩女。俺、胸倉掴まれてんだが」
「アヤメだぁ……?」

さっきから気になってたんだよ!

「姉ちゃんのことアヤメとか呼ぶな!気分悪い!」
「ごめんね北斗くん!お姉ちゃんがアヤメなんて名前なばっかりに!」
「いや彩女、お前の妹が言ってるのは多分そういうことじゃないと思う」

なんなんだよ!
さっきから仲良さげに会話しやがって!

「ま、仲悪くは無いからな」
「あ゛ぁン!?」
「だってね、北斗くん。私と伊織くんは幼なじみなのよ」
「……幼なじみ?わたし知らないよ?」

姉ちゃんの幼なじみなら、わたしだって知ってるはずじゃない?

「伊織くん、小学校の時に転校しちゃったのよ。北斗くんが産まれる前はご近所さんだったんだけどね」
「…………そう」

そういう話をされると、姉ちゃんとの年の差を感じて悲しくなる。
せめて2つ違いくらいなら良かったのに。

「とにかくだな、」

ふぅ、と小さな溜め息と共に紫煙を吐き出しながら秦伊織は呟く。

「俺と彩女はただの幼なじみで同居人、それで文句は無いだろ」
「……あぁ、って姉ちゃんの前でタバコふかしてんじゃねぇえぇぇぇッ!」
「ダメよダメよ北斗くん、私達は居候の身なんだから」

だけど姉ちゃんの綺麗な肺がそんな男の吐き出したケムリなんかで汚れると思うと我慢ならないよそりゃあわたし達は居候の身で……って、はい?

わたし、たち?

「ごめんね、伊織くん。二人でお世話になっちゃって」
「良いよ、一人も二人も変わらないし」
「ありがとう、伊織くん。ほら、じゃあ北斗くん、ご挨拶は?」

今日からお世話になります、なんて。

「死んでも言うかぁあぁぁぁッ!」
「あら、北斗くんたら反抗期かしら……」
「お前の妹、血圧大丈夫か?」

仲條北斗、15才。

姉の親友兼同居人を紹介された、3月のことでした。












完.
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