短編小説2
□耳に響くは君のオト
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彼女の細い指先が動くたび。
体に響く、その音が。
彼女の姿からは想像出来ないくらいに重く、低く。
鼓膜を揺らし、肌を痺れさせる、その音が。
心臓みたいな、その音が。
俺はただ、ただ。
好きだった。
『耳に響くは君のオト』
俺の彼女はバンドマンで。
いや、女の子に対してバンド“マン”はおかしいのか?
よくわからない。
なんてったって俺は万年音楽2評価で、弾ける楽器と言やあピアノとソプラノリコーダーオンリー、レパートリーは“猫踏んじゃった”と“チャルメラ”と“きらきら星”だけ。
中学ん時の音楽の授業、ギターの日だけはサボタージュさせていただいたくらいに俺には音感及びリズム感が皆無である。
そんな俺の彼女が、バンドのギタリスト。
どういう経緯でそんなことになったかと言えば、話がロード全章並に長くなるので割愛させていただこう。
俺の彼女は、ギタリスト。
そして超絶可愛い。
それだけで十分だろ、ああ、十分に決まってる。
そして今日はそんな超絶可愛い俺の彼女、伊藤千琴の晴れ舞台。
学園祭が終わった夕暮れの校門にて、俺は千琴を待っていた。
「なー、軽音部のライブ見た?」
「見た見た。良かったよな、特にほらー……2組目くらいのガールズバンド!」
「良い感じだったよねー、可愛いしー」
次々と帰路に付く同校生達の会話。
あぁ、そうだろうそうだろう、あのガールズバンドはイイ音楽をやるし可愛かっただろう!
特に俺の千琴がなッ!
そんな事を考えながらニヤニヤしていると、突然後ろから聞こえた黄色い奇声。
きゃあー、今日はおつかれー、なんて声に振り向けば、千琴の所属するバンドメンバー達が昇降口から出て来る姿が見えた。
当然、千琴の姿も。
しっかし、共学なのによくもまぁ女子からキャーキャー言われるよなぁ、あいつら。
ま、ドドメ色の奇声が混じってる辺り、男からの支持も得てんだろうけど。
「…………」
さすがバンドマンと言うか、なんと言うか。
メンバー達にはハナがある。
言い方変えりゃあハデだ、ハデ。
一番前を歩くのがドラムの奴でー、その後ろに居るのがベースだろー、その横歩いてんのがボーカル。
その、後ろ。
一番後ろで、ファンから隠れるように縮こまって歩く千琴は、俺の姿を捕らえた途端にふにゃりと笑う。
それはもう、嬉しそうに。
あぁ、ちくしょうかわいい。
「大和くんっ!」
「おつかれ、千琴」
ちっさい体にでっかいギター背負ったまま駆け寄って来る千琴の頭を撫でれば、千琴はまた嬉しそうに頬を緩める。
ふわふわとした雰囲気。
他のバンドメンバーとはまるで違う、どちらかと言えば……控えめな性格と装い。
その証拠に、バンドのファン達は千琴を追って来はしない。
おいコラ今『地味』とか言ったヤツ!ブッ飛ばすぞ!
「ミィーティングは?」
「もう終わった!」
「じゃあ今日は帰って良いの?」
「うん!」
なんでみんな気付かないんだろうな、千琴が一番可愛いのに。
ま、気付かなくて良いけどな!
俺が分かってりゃそれだけで良いからな!
「おー、そこ行くバカップル」
校門前の人口密度が一気に上がったかと思えば、千琴のメンバー達がファンを背負って来ていた。