短編小説2

□IMITATION BLACK
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「誰が?」
「誰がって……俺が。」

俺以外に誰が居んの?

そんな俺の言葉を聞いた目の前の女……真鍋悠希は、しばらく難しい顔をした後に、にっこりと笑って席から立ち上がった。

「うん、わかった」

……なにが?

なにが分かったのかサッパリ分からない俺の前で、真鍋悠希はにこにこと笑ったままに俺を見下ろす。

「やっぱり良いや、付き合ってくんなくて」
「なに?やっぱりヒいた?」
「違う。分かったからもう良いの」

だから。

「なにが分かったんだよ?」

俺のなにが分かるっつーんだ。
そう、少し苛立って荒くなった言葉を、俺は飲み込まざるを得なかった。

どうして?

目の前の女が。
真鍋、悠希が。

先程まで笑顔を浮かべていたと言っても誰も信じないくらいに、冷たい目で俺を見下ろしていたから。

「あんたが独りよがりだってことが分かったからもう良いつってんの」

見たことないくらいに冷たい瞳。

「インシパルの天才ギタリストが、あんなに良い音隠してる男が、なんでライブじゃあんなクソギターなのか気になってたけど、もういい分かった」

恐怖で体が動かないなんて何年振りだ?

ぽとり、と、指先に引っかかっていたマルボロがテーブルに落ちた。

「あんたは何もかも独りよがりなのよ。バンドの中でソロ活動、メンバーも女の子も見下して、俺はこんなとこに埋もれてる人間じゃない、違うって、努力もせずにワガママ言ってるだけ」

自分が気持ち良ければ良いんでしょ?

だったら。

「『暗い部屋の隅っこでマスでも掻いてろこのオナニスト!』って言われた時にビビビっと来たんだよねぇ」

そう言って、長い長い昔話に終止符を打てば、目の前に居たちぃことその彼氏、ヤマト君は眉を潜めた。

「それが、あんたと悠希さんの出会い?」
「そ。運命的でしょ?」
「て言うかあんた人間としてクズ……」
「若気のイタリさ」
「1年くらいしか経って無いスよね」

そう、悠希との出会いから約1年。

あのファミレスでの運命的出会いの次の日、俺はバンドを辞めた。
彼女という名のセフレとも切れた。

そして俺は、悠希がドラムを務めるガールズバンド“テイクツー”の唯一の男子メンバーとなったのだ。
ポジションはリードギター。

喜ばしいことに、テイクツーの人材は素晴らしかった。

安定したベースに、素材が良い上に努力も惜しまないボーカル、リズムギターやらせたら右に出る者は居ないであろう天才サイドギター。

それに、ドラムの悠希が居る。

毎日が、音楽が、こんなに楽しいってことを教えてくれたのは、悠希だから。

そんな楽しい毎日。

本日はメンバー達とライブの打ち上げ。
それをカラオケでやっちまう俺達はほんとに歌バカだと思う。

ちなみに、今ボックスの中に居るのは俺とちぃことヤマト君のみ。

悠希とベースは遅刻。
閉所恐怖症&マイク恐怖症のボーカルはカラオケなんかに来たら死んじまう。

「で、更生したわけか、ヒロさんは」
「更生なんて大袈裟な」
「あとさ、一つ聞いても良い?」

そう言って、薄暗い部屋のなかでヤマト君は神妙に呟いた。

「ヒロさんの女装癖はやっぱりガールズバンドだからっていうアレで……?」
「や、違う違う、これはね、最初ギャグでやった時に悠希にすっげえ蔑んだ目で見られてさぁ」

もー、それがさー。

「ずっげえヨクて、忘れられなくて……」
「……趣味?」
「ううん、ただ悠希に蔑まれたいだけ」
「……なんて言うか、ヒロさん、」

それは、つまり。

「ドSかと思ってたらドMだったっていう、そういう話ですか……」
「うん、俺もびっくり!そりゃ違和感ありまくりだよねって話!」
「……なんて言うか、ヒロちゃん」

最低。

そう言って、俺の大好きなバンドメンバー&メンバーの彼氏は、ぐったりとうなだれた。
























完.




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