短編小説2
□エルフ始めました
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あぁ、そうだよ。
昔から私はそうだった。
捨てられた猫とかな、迷子になってる鳥なんかを見るともう駄目なわけだ。
いつの間にかお持ち帰りしちゃってるわけだ。
どうにも奴らの瞳は駄目だ。
見てしまったが最後、ぼくをみすてるの?おいてゆくの?って悲しそうに揺れる瞳に逆らえない。
その後が厄介なことになることなんて、いつだって分かっているのに。
『エルフ始めました』
テーブルの下に鎮座しているソレを見た瞬間、悲鳴を上げることすら叶わなかった。
「…………はい?」
あまりの事態に、自分が何者で、ここがどこかということすら分からなくなる。
頭の中では、100年ほど前に死んだ伯父上の『また変な生き物拾って来て!捨てて来なさい!』という台詞がエンドレスで響いている。
落ち着け、落ち着くんだジゼル。
そう、そうだ私はジゼル・ルーだ。
この世界の由緒正しきドワーフ族の一員であるジゼル・ルー。
ドワーフ族。
それは世界一働き者で、世界一強い意志を持ち、世界一勇敢な斧使いの戦士で、世界一素晴らしい技術を持つ一族の名。
確かに身長は低めだが、そんなことは取るに足らんことである。
見かけ倒しのエルフと一緒にしないでくれ。
確かに奴らは美しい。
紡ぐ言葉は詩の旋律、月光の肌を持ち、輝く太陽色の髪と風色の瞳、奴らの作り出す絹はこの世界の一級品。
しかし、だ。
所詮はエルフだ。
女どころか男までお綺麗な奴らと我等ドワーフとでは格が違う。
奴らのあの細腕で鉱物が掘れるか?鉄が打てるか?
所詮、エルフはエルフ。
昔から我々ドワーフとエルフは宿敵の関係なのだ。
そもそも馬が合わん。
まぁ、基本的にこの地下宮殿で過ごす我々が、森や谷で生活するエルフに会うことすらそうそう無いんだがな。
……そう、ここはドワーフの地下宮殿。
光の届かぬ、ドワーフの国。
ならば、なぜ。
ここに太陽の加護を受けるエルフが居る?
「…………」
「…………」
書物の整理をしていたら、なんだか外が騒がしくなり始め。
こんなことでは整理なんぞ出来んとキッチンで茶を入れ。
椅子に座ろうとテーブルを見れば、テーブルクロスが揺れていた。
あぁ、また鼠か。
それとも、それを追い掛けて猫が迷い込んだのかと。
そう思ってテーブルクロスをめくったら。
そこには、碧の目をしたエルフが鎮座していた。
三角座りで。
「エ、ルフ」
「……やあ、ご機嫌よう」
そう言ってエルフは、スコップの一つも握ったことがないであろうその白魚のような手を振って来る。
………………エルフ。
きんいろのかみ。
みどりのめ。
まっしろなはだ。
おまけに、とんがりおみみ。
…………エルフだ。
まちがいなく。
「ぅ……う、」
「う?」
「わぁあぁあああ!えいへぇええ、」
「わあぁ、ちょっと待って!!」
衛兵を呼ぶためにドアへと駆け出した私を、エルフは机の下へと引きずり込む。
ひぃいい、腕掴まれたぁああぁああ!!
気持ち悪い!
「無理無理無理無理!気持ち悪い!!」
「え、なにが無理?」
「貴様はゴキブリに腕を掴まれて平気だというのか!?」
「私ゴキブリですか」
まぁ確かに世界最古の生き物という点では似ているかもしれませんね、とエルフは笑う。
ひぃいぃいい!
「笑ったああぁあ気持ち悪いい!!」
「さすがに傷付きますよ……」
比較的近い距離で、エルフはしょげて見せる。
昔、何かの書物で読んだが、確かにエルフの表情は分かりやすい。
へたりとその尖んがった耳が垂れていた。
……いや、そんなことはどうだって良い、とりあえず衛兵だ衛兵。