短編小説2

□第1話
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トンネルを抜けると、そこは不思議の街でした。

目の前に広がる光景を見た瞬間、私の頭の中に浮かんだのはそんな文章だった。
授業で睡眠学習した川端さんだか某ロリコンの作ったアニメ映画だか知らないけど、とにかく意味が分からない。

だって、私は確かにトンネルを越えたはずなのだ。

「…………っ、」

とりあえず起き上がろうと、私は横たわっていた体を起こす。
コンクリート舗装されていない道に寝ていたせいで、体や制服が土まみれだ。

「ぃッ、た……!」

鋭い痛みに視線を下ろせば、膝がなかなか酷いことになっていた。

……そりゃそうだ、私はトンネルを潜ろうとして自転車でこけたはずなんだから。

隣に視線を移せば、そこには私以上に重傷なマイ自転車。
車輪は曲がってるし、ハンドルはひしゃげてるし、カゴなんてぺったんこ。

……明日からどうやって学校行こう。

て言うか、まず。

まず、さ。

「帰れんの、私」

そう、絶望的な気分になりながら、私は目の前に大きくそびえ立つ城を見上げた。






















『MT,アーサー』




















 

とりあえず状況を整理しよう。

さっきまで私は学校から家に帰る途中だったはずだ。
今は完全に殉職したこの自転車に乗って。

で、今日はいつもと違う道を通ってみようとトンネルに向かったわけだ。

トンネルと言っても、上に電車の線路が通ってるだけの、どちらかと言えば抜け穴に近いトンネルに。
本来は徒歩の人間が通るようなトンネルだ、歩いてても頭をちょっと下げて、人が一人通れるくらいのやつ。

そもそもほんとは通っちゃいけない。

そこを私は自転車で通ったわけだ。

いや、初めて通ったわけじゃないよ。
結構通ってるやつも多いし、慣れればわざわざ自転車を下りなくても体を横に倒して走り抜けられるようになる。

私もよく走り抜けてた。

だから、今日だって行けると思って自転車に乗ったままトンネルを潜ろうとした。

そしたら。

久々だったせいか、盛大にこけた。

猛スピードで走ってたせいで、自転車が吹っ飛んでトンネルの端に当たって跳ね返って、体もトンネルとか地面とかに叩き付けられた。

ぁ、死ぬ……って最後に思ったの覚えてる。

で、目が覚めたら目の前に中世ヨーロッパ風の城が立ってるわけだ。

「…………なるほど」

意味が分からない。

分かるわけがない。

周りを見渡せば、ここはどうやら城のなかの中庭……のような場所らしく、映画やマンガでしか見たことのない冗談みたいなバラの垣根や噴水がある。

シンデレラ城を更に大きくしたみたいな真っ白なお城に、真っ白な噴水から溢れ出す嘘みたいに綺麗な水。
それに移った青い空は、信じられないくらい綺麗で。

「……ぁ、」

もしかして。

私死んだ?死んじゃった?
ここは天国か、そうか。

だったら。

「理不尽なくらいに膝痛い……ッ!」

死んでも尚なんでこんなに苦しまにゃならんのですか神様!?

理不尽だ!

て言うか痛い!ほんと痛い!

「いたいよぉ……、」

痛くて痛くて、涙が出て来た。

死んじゃったんだ、私……。

こんなことなら通っちゃ駄目なトンネルなんて通らなきゃ良かった。
お昼ご飯代をケチんのやめて、チョココロネも食べれば良かった。
朝だってもっと早く起きて、ちゃんとお母さんの作った朝ごはん食べて、小夜達と一緒に学校行けば良かった。

「うわぁん、私死んじゃったよおっ!」
「いや、死んでねえから」
「へ……?」

突然聞こえたその声に、弾かれるように振り返った視線の先。
そこには、このお城に居ても全く違和感のない男の子が立っていた。

年齢は12歳くらいだろうか?

こんなお城に居る少年なのだから、カボチャパンツに白タイツの王子様ルックを期待したいところだけど、格好はどちらかと言えばヨーロッパの軍服に近いものを感じる。

くりくりした金色の髪の毛に、水色のおっきなおめめ。

……あぁ、やっぱり私死んだんだ。

「天使がおる……」
「誰が天使だ。薄ら寒ぃわボケ」

その愛らしい外見に似合わず口の悪い少年は、来いよ、とまだ骨格の甘いほっそりとした顎を揺らすけれど。

「……立てない」
「あ?あー、わりーわりー、そうだよな、ケガしてんだっけか」

情けない話だけれどあまりに膝が痛くて立てなかった。

そんな私を振り返った少年は、ゆっくりとした動作で私のもとへと戻って来る。
その歩き方が優雅で、もしかしたら私は絵本の中に居るのかもしれないな、なんて思った。

「ねえ、ここどこなの?」
「これから行く場所で説明してもらえ。俺にはとても説明出来ん」
「これから行く場所って?」
「執政んとこ」
「しっせいいぃ?」

執政ってあれか、老中のことか。


 
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