短編小説2

□chameleon
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「……俺、着替えっから」
「ぁ、どぞどぞ」
「いや、どぞどぞじゃなくて」
「良いよ。私も次のに着替えるし」

次のってなんだよ。

まぁ今までだってずっとお互いにこの部屋で着替えて来たけどな?
俺はな、お前の裸なんざ見たってなんとも思わねーし、お互い裸で居たってなんの気も起きねーから大丈夫だけどな?

そんな自分に軽くヘコむから勘弁してくれ。

「……はぁ、」

ずきずきと痛み出した頭を押さえて、わざと聞こえるように溜息をついてやった。

「あったま痛ぇ……」
「ごめん今日はナース持って来てないやー……ぁ、ミドリ先生の白衣ならあるよ!?キラボシ!」

キラボシ!じゃねーよ。

こうなってしまえば俺に残ってる選択肢は諦めのみだ。
登校まで時間も無いしな。

ベッド側の壁に掛けてある制服を取るために振り返れば、ストーカー女が盛大に服を脱ぎ散らかして下着姿になっていた。

「…………」

ここまで色気の無い裸というのも珍しいと思うんだ。

うーわー、としか思いようがない。

「……お前さ、もう少し恥じらいっつーもんを持てよ」
「パンツじゃないから恥ずかしくないもん!」
「いやパンツだろ。見るからにパンツとブラジャーだろソレ」
「ブラじゃない!大胸筋矯正ベルト!」
「……はッ、矯正するほど良いモン持ってるわけでもねーくせにな」
「貧乳はステイタスなのよ!?」

こいつに構ってたら時間がいくらあっても足りない。
諦めて着替えることにしよう。

俺がベッド側の壁から制服を取り、それを身につけている間にストーカー女の衣装チェンジも終わったらしい。

次のは全く見たことのないやつだった。

カツラを金髪に変え、中国風とも取れるピンクと白の服に、ピンクのブーツ……って室内でブーツ履いてんじゃねえよ。

「大丈夫!今日初めて履いたから!」
「あーそー、そりゃ安心だわ」
「ね、ね?かわいい!?かわいいっ!?」
「……なんのキャラ、それ」
「シルヴィア!いっちまんねんとにせんねんまえからあっいっしってっるぅー!」

あー、それなら知ってるわ。
パチンコかなんかのCMで見たわ。

「ねっ、ねっ、なんか言うことない?言うことあるでしょ、なんか!」
「寒そう」
「ちっがーう!ほら!あなたと合体したいって言うべきでしょコレ!」

……そんな最低な下ネタを言うためにこの服に着替えたのか。

「やっぱ頭おかしいしお前」
「おかしくねーし!」

そんだけキラキラした目でハッキリ言うってことは、今の台詞もなんかのキャラクターの台詞なんだろうな。

こいつは自分の言葉で話す時と、そうでない時の違いが分かりやすい。

自分の言葉で喋ってる時は目ぇ泳ぎまくってっかんな。

「ね!ほら!マコト君!」
「なに」
「ほら!あなたと合体したいって言ってよ!私、気持ち良いって叫ぶ役だから!!」
「やだよ」
「ほら!あなたと合体したいって!」
「朝から合体合体うるせえよ」
「ねぇってば!あなたとがった、」
「はい合体」
「ぐほぁッ!」

あまりにうるさいので拳を腹に合体させてやった。

要約すれば腹パンか。

「これ私の知ってる合体と違う!」
「俺は気持ち良かったけどな」
「そんな爽快感求めてないよ!暴力反対!」

なにが暴力だ。
ほとんど力入れてねえのに大袈裟なんだよ、バーカ。

つーかさ、ほんとなんなのコイツ。

俺ん家になにしに来てんの?
なにが目的か分かりかねるんですけど。

「なにが目的って、マコト君に愛を届けに来てるわけですよ」
「迷惑だ。帰れ」
「っ、そんな言い方……、」

しなくても、と、ストーカーは傷付いたかのように俯く。

……やべ、言い過ぎたか?

…………とか思うわけないだろ。

「ごめんなさい、こんな時どんな顔したら良いか分からないの」
「帰れば良いと思うよ」
「ぎゃー!マコト君が乗ってくれた!!でも答えがつらすぎる!絶望した!!」

とりあえず、この女にはもう構っていられない。
ふと見上げた時計はそろそろ登校しないといけない時間を指していた。

「朝メシ食えねーな」
「ぁ、美味しかったよ朝ごはん」
「なんでお前が食えてて俺が食えねーのか理解に苦しむわ」
「じゃあ明日はもっと早めに起こすね」
「おー、頼むわー。とか言うわけねーだろこの変態が」

机の上に置いておいた腕時計をつけ、通学用の学校指定の鞄を開ける。
大したモンは入ってねーけど習慣ってやつだな。

そんな俺を追いかけるように、金色の頭が俺の後ろから鞄を覗き込んで来た。


 
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