短編小説2

□裕哉が良い兄さんになる話
1ページ/2ページ










「今日、良い兄さんの日なんだってさ」

ことの始まりは、最愛の妹である湖子のそんな一言がきっかけだった。

「……は?なにそれ?」

突然の妹の発言に、俺は思わず家計簿を付けていた手を止める。

良い兄さん?なにそれ美味しいの?

ぁ、もしかしてアレか、等価交換で腕持ってかれたアイツか。
俺は雨天不能なあの人の部下が好きだ。

「今日、11月23日だろ?イチイチニーサンで、良い兄さん」
「へー、知らなかった」
「だからおれになんかしろよ兄貴。たまには良い兄さん的なことを」
「え、それって俺がなんかすんの?」

いつもお世話になってる良い兄さんにお礼するとかじゃなく?

「てめぇが良い兄さんだったことがあるかよこのロリコンが」
「自他共に認めるシスコンになにを言うか。て言うか兄さんを敬おうよ。にぃに、ご奉仕するにゃんって言ってよ」
「そういうとこが良い兄さんじゃねぇつってんだよッ!」

そう言って俺の胸倉を掴む湖子は相変わらず可愛い。

だかしかしやけに怒りっぽいな。

ぁ、もしかしてアレか。

「生理か湖子。予定より3日程早いな」
「……おれ、今年はサンタさんに良い兄さん貰うことにするわ」
「マジか。プレゼントは俺!つって裸にリボン巻いて枕元に寝なきゃなんねぇじゃん。さすがに恥ずいわ」
「一生のトラウマになるわ!」

ちなみに俺達がふざけてるこの場所は俺が経営するホストクラブ“Blue Rose”の事務室であるわけだから、事務仕事サボって家計簿付けてることがバレたらたぶんいや絶対怒られるけどそんなの関係ねぇ。
なんてったって俺はオーナーである。

さて、話を元に戻そう。

「で、結局俺はなにすりゃ良いの」
「良い兄さんになって」
「具体案をちょうだいよ、湖子ちゃん」
「昼ごはんにパスタ食べたい」
「了解。あとは?」
「買い物したいから荷物持ちが欲しい」
「今日は俺、良い兄さんだからなんでも買ったげちゃうよ」
「やた!じゃあそれ片付けたら行こうぜ!おれ向かいのスタバで時間潰してる!!」

そう言って、湖子はめちゃくちゃ嬉しそうに事務室から出て行った。
さっきまで不機嫌だったくせになぁ、勝手なもんだ。

それでも緩む頬が隠せない。

昔は到底妹に抱くべきじゃないややこしい感情なんかを抱えてたもんだが、今になっちゃあただの兄妹愛だ。
もしかしたら父性的な感情かもしれねぇ。

とりあえず湖子タンちょうかわいい。

くっそ!くっそ!かわいい!くっそ!

なんてニヨニヨしていたら、おもむろに事務室のドアが開いた。

「失礼しまぁす……ってうわ、ユウヤさんなにニヤニヤしてるんですか、きも」
「きもとか言うなメリケンが」
「そういう言い方ほんと良くないですよ。あとあたしはイタリー製です」
「良い感じに言うな」

事務室に入って来たのは、この店のNo.2であり、近々一緒に会社を起こす気でいるイタリア人。
そして許せないことだが最愛の妹の彼氏という美味しいポジションに席を持つ、ミツナリだった。

「なにやってるんですか」
「え?お仕事」
「手元にあるの家計簿に見えるんですけど」
「それはお前の心が汚れてるからさ」

俺が何してたとかそんな取るに足らないことはどうでも良いんだよ。

良いとこに来たねミツナリ君。

「俺これから出掛けっから。あとはよろしくメガドッグ!」
「ワンワン!……なにやらせるんですか。て言うかどこ行くんです?」
「湖子とデート」
「なんっ……相変わらず節操がありませんねユウヤさん!妹とそんな関係になるなんてなんなんですかなんなんですか同じ男として信じられません軽蔑しますなんなんですかデートってズルイズルイあたしも連れてってください!」

ふはははは!羨ましがれ羨ましがれ!

高笑いする俺の横でがくりとうなだれる金髪碧眼のナイスガイ。
俺は勝利にうち震えた。

なにこれキモチイイ!
こんなのハジメテ!


 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ