短編小説2
□第3話
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前回までのあらすじ!
極々平凡な人生を歩んで来た私、海野亜朝は公立高校に通う17歳!
ひょんなことから異世界に飛んじゃったらしい私は、飛ばされた世界の国王になるために旅をして経験値を詰まなきゃいけないんだって!!じゃなきゃ元の世界には帰れないっていう脅し付き!!
ほんともう勘弁して欲しいよね!
どんなタイミングで世界を行き来してるのかは分からないけど、とりあえず二回目のトリップを果たした私が行き着いたのは見知らぬ海賊船でした!
連れて来られた部屋の中、私の目の前にはフックでもなければジャックでも無い、美しすぎる金髪の船長さん!
やだ私死んだかも。
とりあえず助けてロットちゃん!!
『MT,アーサー』
「紅茶はミルクで良いかな?」
「……いや、あの、おかまいなく」
わけが分からない。
連れて来られた薄暗い部屋の中、長い金髪を後ろでまとめた船長さんと出会った私は、ペットのワニに食べられることも腕を切り落とされることもなく、豪勢な食べ物の乗ったテーブルでお茶の接待を受けていた。
……え、なにこれイメージと違う。
私の知ってる海賊さんって言うと、赤と白のボーダーTシャツに頭にバンダナ巻いててドクロ模様の眼帯してるはずなんですけれど。
そんで短い剣持ってる感じ。
なのに。
目の前で優雅に紅茶を入れてくれてる船長さんは、英国の王子様みたいな格好をして、きらきら光るハチミツ色の髪を後ろで結んでる。
年齢は20代後半くらいだろうか……。
外国人さんの年齢を見た目で判断する能力が無いから分からないけど。
金色の髪に、藍色の瞳。
アデルさんの銀髪や、ロットちゃんの白に近い金髪じゃないそれは、海賊さんにしては綺麗過ぎる気がした。
「どうぞ、シュガー」
「ぁ、いや、砂糖は良いです」
カチャ、と静かにテーブルに置かれたウェッジウッドもびっくりなほど綺麗なティーカップを受け取りながらそう言えば、船長さんは少しだけ笑って。
そして、私の顎を優しく持ち上げると、その整った顔立ちを更に甘いものにして、低くて心地好い声で囁いた。
「キミのことだよ、ハニー」
……やだこの人、心の病気かしら。
シュガーて私のことかい。
シュガーて……シュガーて!!
更にはハニーて!
ハニーってお前!!
お前、ハニーって!!
大事なことなので二回ずつ言いました。
「どうぞ、シュガー。お好きならガレットなんていかがだろうか」
「……おかまいなく、私なんて氷砂糖っスから……ごりごりの安いやつですわ……ホームセンターとかに売ってるやつ……」
「キミは自分の価値を分かっていないようだね。キミはこんなにも美しいのに……ねぇ、ドルチェ」
うわぁああん!なんかこの海賊さん精神攻撃して来るんですけど!!
ある意味、肉体的に傷付けられるよりキッツイわほんと!!
助けてロットちゃん!!
「……いただきます」
それでも私は、悶絶しそうになる精神を奮い立たせ、上辺だけは冷静に見えるようにと優雅にカップを持ち上げる。
ここでビビッたら余計悪いことが起きる気がしたから。
だって。
この人は、私を見た瞬間に言ったんだから。
『ようこそ、王さま』って。
この国でまだ私は王さまではないし、更に言うなら王候補であることを知っているのはアデルさんとロットちゃんだけのはず。
だから、それをこの船長さんがデタラメで言っている可能性を考えて、私は変に反応しない方が良い。
こんなアウトローな生活してる海賊さん達が国家の頂点に立つかもしれない人間をただで生かしておくはずないもの。
そんなことを思いながら、私は恐ろしく高そうなティーカップに入った紅茶を嚥下する。
そして。
「……おいしい」
思わず、そう呟いていた。
そんな私を、私の向かいに座る船長さんはすごく嬉しそうに見つめている。
「そうかい?それは良かった」
「はい、こんな美味しい紅茶を飲むのは初めてです」
渋味が無くて、ほんのり香るアールグレイの独特の香りもきつ過ぎず。
ふわりと鼻を抜ける香りが心地良い。
「そのお茶にはガレットよりスコーンの方が合うかもしれないね。いかがかな?」
「わ、いただきます」
「スコーンも私が焼いてみたんだよ」
「え、すごい!」
「海の上はやることが少なくてねぇ……ぁ、ジャムはブルーベリーとアプリコット、どちらにしよう?」
「……どっちがオススメです?」
「じゃあ両方だ!」
「あはは、太る太る!!」
「ぁ、ちょっと待ってくれるかい?クロテッドクリームが無くてはスコーンは語れないよ」
「わー、おいしそーう!!」
……とか、きゃっきゃしとる場合やない!
さっきまでの警戒心はどこへやら。
かいがいしくスコーンをフォークで割り、それにジャムとクリームまで添えてくれる船長さんに完全に流された。
くそ、食べ物で釣るとは汚いぞ……!!
でも。
「お口に合ったかな?」
「はい、すごく美味しいです」
「そう言ってもらえると作った甲斐があるよ。皆はなかなか食べてくれなくてね」
そう言って幸せそうに私を見つめるこの人が、自分を悪いようにするとはどうしても思えなかった。
そりゃまぁ、この船は海賊船で。
この部屋の中にはおどろおどろしい蝋燭立てとか、どこかから強奪して来たであろう豪華な家具や宝石が並んでいるのだけれど。
私にはどうしても、この人が悪い人には思えなくて。