短編小説4

□第6話
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前回までのあらすじ。

多趣味なことだけが自慢の私、海野亜朝は極々平凡な女子高生で、とある国の王様候補者。

……そう、私は候補でしかないのよね。

お供のツンデレ電気鼠ロットちゃんと一緒に城下町から帰って来た私を迎えてくれたのは、三白眼で殺気ギラギラな、見るからに炎使いの青年インクさんでした……。

そして、そんなインクさんは、どうやらロットちゃんと超絶仲が悪いらしいのです。

……お願いだから私を巻き込まないでいただきたい。





















『MT,アーサー』






















「ついに異世界から候補者が来たっつぅから帰って来てみりゃ、お前が居ねェっつぅんで退屈してたんだよ」
「へぇ?退屈には慣れてんじゃねえの?普段から駐屯地は暇だろ?」
「いや?お前ら国家騎馬隊みたいに治安の良いとこでぬくぬく出来ねェんでな、忙しくさせてもらってるぜ?」
「じゃあ、ちったぁ腕は上がってんだろうな?退屈させるなよ?」
「その口ごと頭切り落としてやらあ」

目の前には、金髪青目の美少年と、燃えるような赤毛と金色の目をギラつかせる青年。

そんな二人が。

私の目の前で、殺気を漂わせたまま体から雷と炎を放出させているのですが。

「剣を抜けよ。腰抜け」
「よっぽど早く死にてえみてぇだな」
「あぁ?うるせェよ七光り」
「てっめえ!!殺す!!」
「上等だ!かかって来やがれ!!」

早いよ。きみ達早過ぎんよ。

キレるのが。

まさに電光石火ですね。

山田くん!亜朝ちゃんに座布団2枚!

とか、そんなこと言ってる場合じゃないんだってば!

「ロットちゃん、やめなさい!」
「うっせえ黙ってろブス!」
「なっ、んですってえ!?毛も生え揃ってないようなガキが生意気言ってんじゃないわよ!!」
「だから生えてるつってんだろ!!」
「ハッ、国家騎士も落ちたもんだなァ、ランスロット。たかが王候補でしかない女の尻に引かれやがってよォ」
「イン君、きみも黙んなさい」

失礼を承知で、私はイン君の鼻先に人差し指を突き付ける。

きょろん、とその三白眼が。
怖い怖いと思っていた金色が、思いのほか可愛らしく揺らめいた。

「イン君……?」
「きみね、そういうヤなことばっかり言ってるとモテないよ?」
「いや、その前にお前、イン君て、」
「あとなんかもう言い掛かりがすごい。ロットちゃんも悪いけど、きみも悪いよ。仲直りしなさい」
「はァ?どこにオレらが仲良くする必要があんのかお聞きしたいね」
「……あのさ、きみ達とりあえずは同じ国の同じ城で仕事してる同僚でしょ?」

だったら仲良いに越したことないじゃん。
円滑に仕事を進めるための親睦会とか、私はわりと大事だと思ってるんですけど?

て言うかさ、イン君。

もしかしてあなた、仲悪いとかライバルっていう設定に酔っちゃうタイプ?

「なんかさ、イン君」
「……なんだよ」
「言っちゃ悪いんだけどさ、きみ、」

その時の私は、徹夜明けで。
『いつもの自分』を見失ってて。

今振り返ると、ほんとすごくアホだった。

「ほんとモテないでしょ?童貞?」

………………。

…………。

……。

しばらくの沈黙。

昇ったばかりの柔らかい日の光。
それに照らされた薄い雲。

小鳥がさえずる声。

爽やかな早朝。

なのに。

私とロットちゃん、そしてイン君の佇む城の裏門の上空にだけは、暗黒色の雲がうねっていそうなほど。

空気が重かった。

「…………やべ」
「……亜朝」
「…………なに」
「地雷、踏んだわ」

そう、ロットちゃんが冷静な口ぶりで呟いたのと、私の顔面に白い手袋がたたき付けられたのは同時のことで。

「決闘だ!決闘!最初っから気に入らねェヤツだと思ってたんだ!お前なんか王とは認めねェからな!!」
「ごめんイン君!まさかほんとに童貞だなんて思ってなくて、悪気は、」
「うるせェ!お前殺す!」

そう言って私に剣を突き付けるイン君は、半分泣いてた。

ぇ、待ってこの子可愛い。

「3日後!場所は中庭だ!」
「大丈夫だよイン君、イン君ならきっと可愛い彼女が見つかるから、」
「武器はお前が選ぶものに付き合ってやる!」
「大丈夫大丈夫、なんだかんだで童貞貫くひとって早めに結婚したりするもんだから!自信持って!」
「勝ったら王だって認めてやるから!だから黙ってくれねェかな頼むから!!」

3日後だからな!
そう叫んだかと思えば、イン君はその馬のしっぽのような赤毛を揺らして、城の中庭の方へと走り去った。

その背中はどこか悲壮的で。

「なにか悩みとかつらいこととかあるのかしら、彼……」
「今まさに悩みをブッ叩かれてつらくなったんだろうな」
「今!?駄目じゃないのロットちゃん!」
「お前だよ」

お前天才か。
そう呟いたロットちゃんは、はあ、と重苦しいため息をつきながら門を越え、城の敷地内へと足を進める。

私は慌ててその後を追った。


 
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