短編小説4
□第6話
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「まぁ、どっちにしろあいつはすぐ決闘決闘言ってくるから結果は同じだろうな」
「決闘厨なの?」
「決闘ちゅう?なんだそれ?」
「決闘すると興奮するとかそういう」
「ああ、興奮はするだろうな、あいつ。決闘大好きだろうから」
「……あんな純真そうなひとに、そんなマニアックな癖が」
「え?」
「え?」
そんなアホな会話をしているうちに私達は大広間へと到着し。
数分後。
なぜか、冷たく美しい大理石に正座させられていた。
「ランスロット、あなたが付いていながらなんということですか」
「いや、放火事件に勝手に首突っ込んだのはそいつで、」
「インク・アンダーソンのことです」
銀色の髪に、薄紫の目。
真っ白なローブに身を包むメガネは相変わらずの笑顔を浮かべたまま、大理石に正座する私達を見下ろしている。
え、なにこれデジャヴュ。
何回目?何回目だっけこれ?
お前タイムープしてね?
「アーサー様」
「はっいぃぃい!」
突然名前を呼ばれてびっくりした。
冗談みたいに体跳ねたんですけれども。
「あなたは……次から次へと忙しい人ですね、まったく」
「……すみません」
そりゃまぁ、確かに。
勝手に実家帰ったり。
海賊船に不時着したり。
城下町出たかと思えば事件に首突っ込んだり、すぐ帰って来たり。
決闘申し込まれたり。
忙しいよね、うん。
……いやほんと申し訳ない、アデルさん。
「まぁ、放火事件の件は後回しにするとして……あの男とコンタクトを取れたことだけは良しとしましょうか」
「あの男……って、イン君のことですか?」
「また良いアダ名を付けましたね。ふふ、私にも付けていただきたいくらいですよ」
「あ、じゃあアデルさんはアディ・マーフ、」
「殺しますよ」
「えっ、」
「あの男、あなたを。本気で殺しに来ます。人との切り合いを好む、下品な男ですから」
わーい、びっくりしたぁ。
そっちですかーい。
まぁ「殺しますよ」って言った時のアデルさんの目と声が本気のそれだったことには目を伏せることにしようと思います。
ふう、と小さくため息をついたアデルさんは、大理石の床をこつこつと鳴らしながら私へと近づく。
「アーサー様、一番最初に石を選んでいただいたことは覚えてらっしゃいますか?」
「……私が家に置いてきちゃったアレのことですか?」
そんな怖い顔しないでよ、ロットちゃん。
「ええ、あなたはシュヴァリエ家のサファイアを選びましたね」
「はい」
「あの男はルビーの象徴石を持つ、アンダーソン家の男です。あのような無鉄砲な男ですが、あれでも国家の三本柱。私達では抑えがききません」
「……えーと、つまり?」
下手したら、ロットちゃんじゃなくてイン君がお付きだったかもしんないってこと?
「ええ、だから私はあの時言いましたよね。賢明な判断です、と」
「俺も言ったろ、赤を選んでたらお前の首は無かったってな」
「そんな人を三本柱にして良いの!?」
っぶねー!っべーすよそれ!!
「とにかく、どちらにせよ、あの男は自分と戦わぬ人間を王とは認めないでしょう」
……あのー、アデルさん。
「なんです?」
「つまりはどういうことだってばよ、と言わせていただきます」
「今から剣を鍛えさせるには時間が足りません。国家騎馬隊の武器庫から体に合うものを選ばせます。多少の傷なら魔法で治せますから、心臓だけは守り抜いてくださいね」
…………いやいやいやいやいや!
ないないないないないない!
「無理ですよ!私、格闘技は7才の時に放課後教室ファイトを一度経験したきりなんですからね!?」
「戦歴があるなら十分です」
「いやいやいや!放課後教室ファイトの主な攻撃なんて髪の引っ張り合いとか金蹴りとかで、だから、」
「アーサー様」
これは、王としての試練のひとつですよ。
そう、微笑んだアデルさんの笑顔は、やっぱりオカン並に怖くて。
私は「ハイ」とうなずくことしか出来なかった。
◇◇◇
その後、私はロットちゃんに連れて行かれた武器庫で、簡素な鎧と小さな剣を選んでいた。
「お前、そんな装備で大丈夫か」
「大丈夫だ、問題な……って死亡フラグやめて!まだ死にたくない!!」
ロットちゃんが心配するのも分かる。
私が選んだのは左胸と肩をかろうじて覆う程度の軽い鎧と、チアで持つバトン程度の重さと長さしかない短剣だったのだから。
「だってフル装備になんてしたら重くて動けないよ」
「だからって、そんな短剣で……」
「扱い慣れたものの方が良い」
そう言いながら、私は試しに短剣をくるくると回してみる。
うん、感覚は同じだ。
中学でチアやってて良かった。