短編小説4

□be with you
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「イヤだわ、ムッシュー。わたくし、プティ・ミレディを取って食べたりしませんことよ?」
「ああ、もちろんだ」
「……どうせなら、別の物が食べたいわ。ねぇムッシュー、喉は渇いていまして?」
「…………ああ」
「ふふ、良かった。ごめんなさいね、プティ・ミレディさん……わたくしとあなたのご主人様の2人分、ワインを貰って来てくれないかしら?」

内心、舌打ちをしそうになる。
出来るだけアップルティーを一人にはしたくなかったのに。

「……ローガン様?」

伺うように私を見上げてくるアップルティーに、見栄えのためだけに持っていたステッキを渡し、私は命じる。

「すまない、ワインを2杯頼む」
「はい。いつもの銘柄で?」
「そうだな、頼む」
「かしこまりました」

このパーティーに来て、初めて仕事を与えられたと思ったのだろう。
少女は嬉しそうに頬を緩め、会ったばかりの女にも銘柄を聞いていた。

「では、行って参ります」
「ああ、……それと、」
「はい」
「誰かに声を掛けられても、主人に叱られるからと相手にするな」
「ふふ、かしこまりました」

まさか自分が貴族達の性の対象になるなどとは思いもしないのだろう。
アップルティーは、まるで道草を咎められたかのように笑う。

そうして、何も知らない真っ白な少女は着飾った貴族達の群れへと消えて行った。

「……可愛いお稚児さんね」

予想していた通り、女はアップルティーの背中が見えなくなるのも待たずに、私の肩にその細い指を這わせる。

明確な意志を持ったそれ。

情事を匂わせるような指先と、押し付けられる胸の膨らみに舌打ちしそうになりながらも、私は口元に笑顔を乗せた。

「…………まさか。あんな子供には興味ありませんよ、お嬢さん」
「……本当に?」
「ええ」
「なら、バルコニーまで来て」

ああ、面倒臭いことになった。

女の熱っぽい瞳を見下ろしながら、そんなことを思う。
そんな私に気付きもせず、女は爪の先まで着飾った手で私の手を引いた。

……手袋をして来ていて良かった。

肌と肌を合わせるはめになっていたかもしれないと思うと、ぞっとする。

「ふふっ、こっちよ」

手を引かれ、連れて行かれたのは、この豪勢な屋敷に相応しい作りのバルコニーだった。

だが。

隣の部屋や、カーテンの向こう。
姿こそ見えないが、嫌でも聞こえてくるなまめかしい声々に、吐き気がする。

さすが、貴族様の集まる舞踏会だ。

ブタ小屋のブタだって、もっとお行儀良く交尾するだろうに。

「浮かない顔ね。あまりこういうことはお好きでなくて?」
「……いや、ただ……きみは、こんなことをする必要のない家の育ちだろう?」
「…………そうね、ムッシュー」

女は笑う。
仮面を外して。

月の明かりを背にした女の顔は見えないが、それでも女がイヤな笑顔を浮かべていることだけは分かった。

「……一度だけで良いから、あなたとしてみたかったのよ。ローガン・ジャン=マルヴィン」
「……仮面舞踏会で名前を呼ぶのは色気に欠けるって、パパにそう習わなかったのかい?お嬢さん」
「みんなが言うんですもの、ローガン・ジャン=マルヴィンは天国を見させてくれるって」

こういう時ばかりは、自分の手癖の悪さを反省する。
アップルティーが来てからは火遊びも控えるようになっていたが、それでもまだ汚名は消えていないらしい。

「きみのような若くて美しいお嬢さんなら、相手なんていくらでもいるだろう?」
「ふふ、さすが。お上手ね」
「こんな年寄りをわざわざ相手にすることもないさ」
「そんなことないわ、ムッシュー」

鼻につく甘い香り。
上質なそれを漂わせながら、女は私の体に手を這わせる。

「噂に聞いていたよりよっぽど魅力的だわ……ええ、本当に」

とろんとした碧の瞳。

男を落とそうとするそれに内心小さな溜め息を吐いてから、手慣れた手つきで下肢に触れる女の手を掴んだ。

ここまで来たら、仕方ない。

「ローガン、仮面を外してちょうだい」
「…………」
「ねえ、ローガン」

手袋のまま、女のドレスをたくし上げ、滑らかであろう肌を撫でる。
そうして、バルコニーの柵に女を押し付けた。

獣が交わるような体位。

ブタ以下の我々貴族にはぴったりだろう。

媚びたような笑顔も見たくはない。

「ねえ、ローガン」
「知ってるか、お嬢さん?こういう時は黙るのが礼儀ってもんだ」
「っ、あ、……あぁ」

名前を呼ばれるのもうんざりして、柔らかく耳に噛み付きながら、コルセットの胸元を少々乱暴に暴く。

スカートの中の手を動かすのも忘れない。

手袋のままに触れた指先でも、女の陰部がしとどに濡れているのが分かった。

…………ああ、汚い。

嘲笑うような笑みが漏れてしまうが、そんなものはもう、女の耳に入ってやしないだろう。

「……いけないお嬢さんだ、きみは」
「ねぇ、っ……お願い、もう、」
「…………どうして欲しい?」

ぐちゃぐちゃと、手袋のままに女の体内を掻き混ぜる。

女の一番の性感帯らしい突起を刺激しながら、体内に埋めた指で反応の良い部分を押し付けるように撫でてやれば、女は狂ったように首を振った。

「あ、んっ、お願い、っ……あ、」
「…………」
「だめ、もっ、あ、あぁッ!ぃ、く……っちゃう、ぁあ、……あぁんッ」

びくびくと震える背中。

それを驚くほど冷たい気持ちで見下ろしながらも、私は女を逃がすことはしない。
絶頂に達しながらも新たな快楽を注ぎ込まれ、若い体は震え出す。


 
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