短編小説4
□第7話
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前回までのあらすじ!
多趣味なことだけが自慢の私、海野亜朝はある日をさかいに異世界を行き来するようになりまして、その国の王様候補として奮闘することと相成りました!
まぁそれからもなんだかんだありまして、仲間になったのはショタ雷使いのロットちゃんとサド眼鏡のアデルさん。
それから乙女海賊ミカちゃんに、キレキャラ童貞炎使いのイン君!
うん、キャラ濃いね異世界!
キャラ濃いわやっぱ!
こんな人達相手に、若干17歳の海野亜朝、本日も尽力致します!
『MT,アーサー』
「アデルさんっておいくつですか?」
本日、晴天。
雲一つない晴々とした青空。
しかし、私はそんな素敵な空の下でピクニックをすることも、のんびりすることも、はたまたサウンドオブミュージックごっこをすることも許されず。
室内でじめじめと勉強を叩き込まれていた。
そんな中でこぼれ落ちた一言。
『アデルさんっておいくつですか』
それはもちろん、私をこの部屋に監禁し、私の容量の少ないブレーンによく分からない言語と歴史を詰め込んで来るメガネに向けた言葉なわけで。
だって、仕方ないじゃない。
この時期は国で定期的に火災が起こりやすくてー、とか。
だからこの時期は国一番の魔法使いである賢者さんを派遣してー、とか。
そんな小難しい年表を説明するアデルさんの、ふせられた睫毛が。
薄紫色の瞳を縁取る、銀色のそれが。
あまりに綺麗だったもんで、この人いくつなんだろう?って思っちゃったのよ。
……まあ、でも。
そう言ってしまってから、約2秒。
とてつもない殺気を持った笑顔で私を見つめて来るアデルさんに、最早後悔という言葉しか浮かびませんがね。
「よそ事を考える暇があるとは……さすが余裕ですね、アーサー様?」
「いや……ほんと、すんません……」
「じゃあ答えていただきましょうか。最後の大火災の年号と、国家が取った対策、その後の復興活動など」
「分かんないです……すいません……」
ひ、ひぃ……!怖い……!
中学時代にお世話になった国語の先生も大概怖いと思っておりましたが、アデルさんほどじゃなかったです。
笑顔が怖い、笑顔が。
にこにこと笑顔を浮かべつつ、しかし額に青筋立ってそうなアデルさんは、じっと私を見下ろす。
見下ろすって言うか見下す。
そんなアデルさんと目を合わせることも出来ず、冷や汗をだらだらとかく私の汗がスラムダンク級のそれになりかけた時、ふ、とアデルさんの気が緩むのを感じて。
恐る恐る顔を上げたら、アデルさんがおかしそうに小さく笑っていた。
「ははっ、そんなに怯えなくても……」
そう言って笑うアデルさん。
いつもの微笑みでもなく、ふふっ、でもなく。
おかしそうに口を開けて笑うその人は、いつもより幼く見えた。
私が思っているより若いのかもしれない。
「まぁ、そろそろお疲れでしょうしね。少し休憩しましょうか」
「そうしていただけると助かります」
「ミカエルが寄越したタルトがありますから、お茶でも淹れましょう」
「……アデルさんが?」
「ええ、高いですよ」
執政が直々に淹れるんですから。
そう言って、アデルさんは白いローブを引きずりながら、テーブルにあったお茶のセットへと近づく。
銀色の蓋を開ければ、そこには高そうな食器と苺のタルト。
思わず、私も椅子から立ち上がった。
「わお!タルトだ!」
「ええ、木苺だそうですよ。ミカエルがわざわざ山に入って取ってきたみたいで」
「……ミカちゃん仕事してんの?」
「本人に言ってやってください」
そう、大きなため息をつきながら。
アデルさんはタルトを切り分け、お高そうな皿に乗せると、私へと差し出した。
……アデルさんは食べないんですか?
「私、甘いものはあまり……」
「…………これが萌えか」
「なんですって?」
「なんでもないです」
一瞬振り向いたものの、アデルさんは「そうですか」と、再び高そうなポットへと視線を戻す。
……そう言えば、お茶淹れるって言ってもお湯無いですよね?
この時代に電気ポットなんて無いし。
「メイドさんから貰って来ましょうか?」
そう問い掛けた私に、アデルさんは何も言わず、にやりと意味深な笑みだけを返し。
そうして、銀色の水差しにそっと手を当てた。
次の瞬間。
ふわりと、水差しの口から白い空気が漏れ始める。
「…………湯気?」
「ええ、水をお湯にしました」
「アデルさんも魔法が使えるんですか!?」
「少しですがね」
彼らのように、水や火を操ったり、雷を作り出したりは出来ません。
そう、小さく笑いながらアデルさんは水差しのお湯をポットに注いだ。
……なんて言うか。
「それでも十分凄いはずなんですけど」
「そうですか?」
「でも、ロットちゃんとかイン君を知ってるせいで、ショボいと思ってしまう自分の流されっぷりが怖いです」
「その柔軟さがあなたの魔法ですよ」
褒めているのか、けなしているのか。
よく分からないことを言いながら、アデルさんは私にティーカップを差し出した。