短編小説4

□第7話
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「ありがとうございます」
「お砂糖とミルクは?」
「あ、ミルクだけ頂きます」
「どうぞ」

貰ったミルクを注ぎ、くるくるとそれを混ぜる。
盗み見たアデルさんはストレートティーを優雅に傾けていた。

銀色の髪と睫毛。
薄紫色の瞳を隠す眼鏡。

もの静かな雰囲気。

整った顔立ちと、白いローブにも負けない陶器のような肌。

「……アデルさん、」
「なんですか?」
「アデルさんって、よく見るとめっちゃ美人ですよね」
「ぶ……ッ!」

美人は紅茶を吹き出しても美人。

晴れ渡るような晴天の本日、海野亜朝17歳はそれを学びました。

「……なんですか、いきなり」
「いや、綺麗だなぁって……」
「…………少なくとも、こんなイイ年した男のためにある言葉ではないですね」
「あ、思い出した!で、おいくつなんですか?アデルさん」

本当に、ただの疑問。
なんのやましさもないその疑問を解決するため、私は良い香りのする紅茶をすすりながらアデルさんを見上げる。

うん、やっぱ紅茶うまい。

そんな私を訝しげに見つめていたアデルさんだけど、なにかを思い付いたかのように、作り物のような笑顔を貼付けた。

「いくつだと思います?」
「キャバ嬢かよ!?」
「その“キャバ嬢”とやらがなにかは知りませんが、言いたいことは何となく分かりますよ」

ぐに、と。
子供にするように鼻を掴まれて、ぶへ、と変な声が出る。

そんな私に再び幼い笑顔を向けながら、アデルさんは口を開いた。

「26です」
「ふへ?」
「わたくし、アデル・イシス・マイヤーは今年26になりました」
「……若い」
「ありがとうございます」

そう言って笑いながら、アデルさんはカップを傾ける。

その横顔に私は質問を続けた。

「じゃあ、ミカちゃんは?」
「ミカエルは確か私の三つ下ですよ」
「ミカちゃん23歳なの!?うそ!?もっと行ってると思ってた!」
「図体ばかりデカいですからね」
「じゃあ、ロットちゃんとイン君は?」
「彼らは同期のはずですから……18、だったかと。とは言っても、あなたが知っているランスロットは10才の姿でしょうけれど」
「いや、一度だけ船の上で見ました……って!ロットちゃんってあれ10才の姿なんですか!?」
「ええ、確か彼は時代を8年遡る魔法を使っていたはずですから」
「もっと行ってるかと思ってた……やっぱり大陸の人間は大人っぽい……」

そんな絶望を抱える私の横で、アデルさんはおかしそうに笑う。

鬼だ鬼だと思ってたけど、アデルさん。

「あなた可愛いじゃないですか」
「アーサー様、私もいつまでも笑っていませんよ?」
「……はい」

き、切り替え早ぇえええぇええ!

さっきまでの可愛い笑顔はどこへやら。
急激に真顔になった薄紫色の瞳がきらりと光る。

さすが若くして国をまとめてるだけありますよね!さすが!

やっぱ怖いわ!

「それを食べ終わられましたら、歴史の続きを。その後はもう一度文法です」
「……はい」
「それから、行儀作法の方からも早めに指導に入りたいとの声が出ていますので、また指南役を連れて参ります」
「…………はい」
「明日からはランスロットが剣術と馬術の指導に当たりますので、ご覚悟を」
「…………」
「おや?お飾りの王にはならないとおっしゃったお口が閉じてるようですが!」
「もちろん喜んでー!」

ああ、やっぱ鬼だわアデルさん。
全然可愛くないんですけど!

なんとなく居酒屋のような返事をしてしまった口に、泣く泣く木苺のタルトを詰め込み、私は紅茶を飲み干した。

うう、ミカちゃんに会いたい。

頭の中で思い浮かべたミカちゃんは、数日前に会った時のまま、大砲付きの帽子をかぶったアホな姿で『どんマイマイマイのマイだよー!』と私を励ましてくれる。

よく考えなくてもやっぱりミカちゃんってアホの子だよね。

大丈夫か、うちの海軍。

「大丈夫ですよ、仕事は出来る男です」
「アデルさん、ナチュラルに心読まないで……」
「あんなアホな男でも、とりあえずは国家の4本柱の一人ですから」
「国家の4本……、あれ?」

前は国家の3本柱って話してませんでした?

サファイアのロットちゃんと、ルビーのイン君と、エメラルドの誰かって。
その3人が御三家で、私はその中からロットちゃんを選んだんでしょう?


 
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