短編小説4
□Calling
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あなたはとっても綺麗なひと。
あなたに呼ばれると、そう……まるで。
空だって飛べそうな気がするの。
『Calling』
「鈴校ー!」
「ファイオー!ファイオー!」
「鈴校ー!」
「ファイオー!ファイオー!」
体育館に響き渡る声。
練習試合だって手を抜かないチームメイト達にはつくづく感心する。
ぼんやりとパスをしながら、私はこっそり小さく溜め息をついた。
この暑いなか、あまり乗り気になれないけれどきっとバレやしない。
普段から私は“おどおどしたセッター”という立ち位置なのだから。
そう、きっとバレやしない。
あなた以外には。
「おいブス、やる気出せよ」
「……宮ちゃん」
聞こえた低めの声。
振り返れば、私と同じユニフォームを着た、我が鈴橋高校女子バレー部のエースアタッカーが立っていた。
「無駄にデケェ目はどこにやった」
「……眠たいの」
「嘘つけ。やる気無いだけだろ」
「……ちがうもん」
「何でも良いけど。プレーに支障出すんなら帰れよ」
「…………かえらない」
「ならしゃんとしろ」
そう言って私の背中をバン!と叩いたエース……幼なじみの『宮ちゃん』こと宮田マツリはパスを終えてベンチへと戻って行く。
170p越えの高い背と、長い手足。
見下ろした自分の手の平は酷く小さく、私はまた溜め息をつくしかない。
「マツリ、また乙葉泣かしたの?」
「泣かしてないですぅ」
「乙葉、気にしなくて良いからね?ブスがひがんでブスつってるだけだから」
「誰がブスだ!」
「あんた、ミス鈴橋に向かってよくブスなんて言えるわね。そのツラで」
「はあ?そいつブスだろ。ブスにブスつって何が悪い」
「ひがむな、ブス」
「やかましいわ」
何やらリベロと宮ちゃんが言い合いをしているけれど、私は顔を上げられない。
だって私はブスなのだ。
確かに、見た目だけは綺麗に生まれたかもしれない。
でも。
私の中身は、こんなにも……。
「ハイ、公式練習終わり!集合して!」
甲高いホイッスルの音と、凛としたキャプテンの声。
それに頭の中の醜い考えを掻き消された私は、ゆっくりとエンドラインに並ぶ。
ずらりと並んだチームメイト達。
コートの向こう側には、隣町の、ブロックが高いことで有名な高校のチーム。
我が校も、相手校も、それなりに強豪と呼ばれるチームだ。
その中でレギュラーを勝ち取った6人は、みんな平均より背が高い。
バレーは背がモノを言う競技だから。
そんな中で、頭ひとつ分もふたつ分も小さい私は、どう見たって場違いでしかない。
……そう、高校に上がったあの時。
セッターなんかじゃなくて、リベロに転向しておけば良かったのだ。
「ブス」
俯く私にかけられた声。
顔を上げれば、宮ちゃんの普段から釣り上がった目がいつも以上に強く私を睨みつけていた。
「いらんこと考えてんじゃないだろうな」
「……考えてない、よ」
「嘘つくならもっとマシにつけ」
それだけ言うと、宮ちゃんは相手チームと握手をするためにネットの向こうを向いてしまう。
その横顔は、気迫に溢れてて。
やっぱり綺麗だった。
「ブロック注意ね」
「サーブは?」
「公式練習見たとこ、1番4番以外は大したことなかったかな」
「4番レシーブ甘いからね」
「狙ってこ狙ってこ」
ベンチに戻って。
短い作戦会議の内容を頭に叩き込む。
宮ちゃんは今日調子が良い。
キャプテンは少し緊張気味だから、一発目は避けて。
しょっぱなは梓ちゃんのサーブだから、きっと向こうは崩れる。下手したら一本で返ってくる。
そしたら宮ちゃんに派手にやってもらおう。
宮ちゃんのアタックは、とても派手で、相手はビビるし、こちらの士気も上がる。
それに、宮ちゃんのアタックは。
とっても綺麗だ。
「乙葉!円陣!」
「おいブス!早くしろ!」
「だーからアンタ、鈴校イチの美少女に向かってなんつー、」
「早くしろ、グズ!」
「ご、ごめんっ、」
急かされて加わった円陣。
みんなの背が高くて、私はいつもいつも、うもれてしまう。
「いつも通りにやれば良いよ!」
「ハイ!」
「練習試合なんだから、それぞれの課題を試すチャンスだと思って!」
「ハイ!」
ぼんやりとしたままの頭。
キャプテンが言ってることは、いまいち耳に入って来なかった。
「ブス、しっかりしろ」
「……うん」
「どっからでも来い。あたしが全部打ってやるから」
「……うん」
分かったんならシャキっとしろ!
そう言ってポジションに付く宮ちゃんは、やっぱり綺麗で。
私はいつも、宮ちゃんばかり見つめてしまう。