短編小説1

□キミと、ファインダーと、僕。
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「なんだよお前!!」
「白鷺学院写真部、部長」
「はぁ!?」
「一年七組、芥川千秋と申します」

つまり加治さんはセンパイということになりますね、と、さも当たり前のように喋り続ける少女……、芥川千秋は、自分がしたことなど何でも無いかのようにあっけらかんだ。

「おッ前なぁッ!!」
「あんまり大声出さないで下さいよ、耳がきぃんってなりますから」

芥川はそう言って耳を塞いで見せる。

ぁ、ごめん……って、そうじゃねぇ!!

「テメェ!!」
「芥川です」
「てっ、めぇ……」
「千秋と呼んで下さっても構いません」
「……ッ、芥川ッ!!」
「なんでしょうか」
「肖像権の侵害だ!!フィルムよこせ!!」

そう叫べば、芥川は斜め下からキョトンとした目でオレを見上げてくる。

「しょーぞーけん?」
「“自分の顔や姿を無断で写真・絵画などに写し取られたり、それを展示されたりすることを拒否する権利”だよ、分かったかッ!!」
「へー、加治センパイ頭良いんですねぇ」

見えないやー、となにやら失礼なことを呟きながらも芥川は一向に行動を移さない。

「さっさとしろよッ!!」
「なにがですか?」

フィルムを渡せと言っているんだ!

「いやですよ」
「そうだお前がちゃんとそうやって返すなら許してやらなくも………………て、え?」
「……コントですかそれ」

芥川は変人でも見るような目でオレを見上げながら、あからさまな愛想笑いを浮かべている。

やめろ、そんな愛想なら要らん。

つーか、まさかそんなきっぱりと『嫌だ』と言われるとは思わなかったたんだ。
だってそうだろう?
悪いのは確実に向こうなんだから。

だからあんなコントのような……って芥川てめぇその愛想笑い止めやがれ!

「いや、なんかセンパイのイメージが、こう……ねぇ?」
「ねぇってなんだよ、ねぇって!」
「やっぱりただのヤンキー気取りじゃないですか」

別にヤンキーなんか気取ってねーよ。
まわりが勝手にそう言ってるだけだろ。

「ぁ、やっぱりそうですか?」

やっぱりってなんだよ。

「だっておかしいと思ってたんですよね、ずっと。目立った不良的行動なんて服装の乱れとオンナ遊びが激しいのくらいだし、バイクもクルマも乗り回さないし。タバコもしないでしょ、センパイ。それにその金髪も地毛じゃないですか」
「…………え?」

それまでは黙って聞いていたのだけれど、思わずそこで声を上げてしまった。

なに言ってんだ、こいつは。
この不自然な金髪が地毛だって?
んなこと今までの人生で一度も言われたことねーぞ。

「……あれ?違うんですか?」

なにも言えずに呆然としてるオレにじれたのか、芥川は不思議そうにそう問い掛けて来る。

いや、地毛かそうじゃないかと言われたら、それは……。

「地毛、だけど……」
「ですよね!あー、ついに左目までおかしくなったのかと思ったー」
「…………なんで、」

分かった?と情けなく震えた声で聞けば、芥川は半分前髪で隠れた顔でにっこりと笑って、首から下げているカメラを持ち上げた。

「これです」
「……カメラ?」
「ええ。こいつは正直なやつでね、紛いものはすぐに見破っちゃうんですよ。光の加減だとかなんだとかでね、染めたり色抜いた髪はすぐ分かりますから」
「…………そう、か」

にこにこと笑っている芥川とは対照的に、オレは酷くマヌケな顔をしていることだろう。

でも、仕方がない。
こんなに驚ろくのは久しぶりなんだ。

昔っからずっとこの頭には悩まされて来てて。

『るかくんだけヘンないろー』

両親や兄弟達は黒髪なのに、オレだけ金髪で。
それはどうやら、ばーちゃんからの隔世遺伝だったみたいなんだけど、んなこと小・中学生に理解しろっつったって無理な話なわけで。
それどころか、先生も、友達も、誰も信じちゃくれなかった。

どうせ信じて貰えないんだったら、って。
どうせ言いがかり付けられるんなら自分から『不良らしく』してやるよって、そう思っていた、のに。

なのに。

初めて会ったはずの芥川が、こんなにも簡単に見破るなんて。

「素敵ですよ、ハニーブロンド」
「……ありがとな」
「礼には及びません、それでは失礼します」
「あぁ、…………ってちょっと待てやゴルァアァァァッ!!」

そそくさと中庭から退散しようとした芥川の肩をひっつかみ、引きずり戻す。

あっぶねぇ雰囲気に流されて本来の目的を忘れるとこだった!

「ネガ返しやがれッ!!」
「…………ち、」
「テメェ舌打ちしてんじゃねぇぞゴルァアァァァ」
「やめてくださいよもー耳がきぃんって、」
「その手には乗るかぁあぁぁッ」

オレは、再び耳を塞ぐポーズに出ようとした芥川に先手を取って、無理やり首から下がったカメラを掴み取った。


 
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