短編小説1

□炉心溶融‐メルトダウン‐
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水沢くんに背負われて連れて行かれた駐輪場。
歩行者天国だから当然車なんて止まってなくて、営業もしてないからライトも付いていない真っ暗な平地。

降ろされた先、コンクリートだけが焼け付くように熱かった。

「……大丈夫?」

そう言って水沢くんは私の頬にかき氷のカップを押し当てる。
その冷たさが心地良かった。

「だいじょうぶ」
「よく倒れるよね、如月さんって」
「……ごめんね」
「ううん、そういう意味じゃなくて。見るからに儚そうだからさ、逆に納得」

真っ暗なせいでシルエットしか分からないけれど、水沢くんの声は決して怒ってはいない。
この夏休み中だけでも、何度も何度も倒れる私なんて面倒臭いだろうに。

優しいひと。
水沢くんはどこまでも優しい。

時として、残酷なくらいに。

「……如月さんはさ、」
「ん?」
「なんで俺に、あんなこと、」

言ったの?と、最後には消え入りそうな声で水沢くんは私に問い掛ける。

あんなことってなに、なんて聞かなくても分かる。
あの日の、あの時のことだろう。

夏休み前の最後の登校日。
終業式だけの登校日。

私の最後の、登校日。

その日、私は水沢くんに言ったのだ。

『夏休みの間だけ、付き合って』と。
『おねがい』、と。

最初は水沢くんも戸惑って、如月さんのこと俺あんまり知らないし、と断る言葉を並べていたのだけれど、夏休みの間だけで良いから、だから、と涙する私に、水沢くんは遂に頷いてくれた。

涙ながらにそう言う私を、情に訴えるなんて汚いと誰しも思うだろう。
水沢くんもそう思ったはずだ。

でも、水沢くんは頷いてくれた。

さっきみたいに、怒ってるような悲しんでいるような、よく分からない顔で。

「…………夢、だったの」
「……なにが?」
「彼氏とお祭り行って、かき氷食べるのが。……私がいちご味で、彼氏がブルー・ハワイで」
「……そっか、それで」

夢、叶ったじゃん。
そう言われて頷いて、ほとんど溶けてしまったかき氷を口に含んだら、喉の奥に何かが詰まる感覚がした。

「……ヒュ、」

お腹の奥が気持ち悪い。
喉が焼け付くように痛んだ。

「ごっ、はッ、……ッ、げほッ、げほッ、ぅ、ごッ、はぁっ」
「如月さんッ!?」
「ッ、げ、ぅ、ッ、は、ッ……はは、ごめ、かきごり、が、きかん、にッ」
「もー……大丈夫?」

良かった。

ここが暗闇で良かった。
いちご味のかき氷を選んで良かった。

きっと、浴衣は真っ赤に染まってしまっているだろうけど。

どろどろとした生温い液体が体の奥を、口元を、汚していく。
……きっと、内蔵が溶けてんだ。

溶けて、混じって、溢れ出して。

私の恋と、一つになってくれれば良いのに。

溶けきったかき氷を見つめながら、そんなことを思う。

私の体も、私の恋も、かき氷も。

全部、全部、全部。

溶けて、混じって、溢れ出して。

全部、全部、全部。

あなたと一つになれれば良いのに。

「……明日は、どこ行こっか?」

明日、私はまだ生きていられるかな?
明日、まだあなたの彼女でいられるのかな?

「如月さん?」

私達の関係は。
私の体は。

秋を迎えることなんて出来ない、ガラクタだけど。

あなたは何も知らないでいて。

きっとこれが、最後の夏。
最後の、恋。

















あなたは私の最後のひと。






















END.











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