短編小説1
□Dear,My Sister
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可愛い湖子、俺の妹
『Dear,My Sister』
自分の性癖がおかしいと感じたのは、確か高校を卒業した、その日のことだったと思う。
いや、確実に。
それまでの俺は、18年間の人生で一度だって女に不自由したことなんて無かった。
俺の外見は何故か女ウケするらしく、黙ってたってオンナはいくらでも寄ってくる。
断るのも面倒で、寄ってくるのとはみんなヤッたし、離れていくのを追うのも面倒だった。
でも。
体が満たされることなどない。
気持ちが満たされること、など。
いつの日からだったか。
喉が渇いて、体が渇いて、仕方無くなったのは。
イライラしてムカムカして、世間様にも家族にも沢山迷惑ばかりかけて。
いつの日からだったか。
そんな日常にも慣れ、適当なオンナを抱くことで渇きをごまかし始めたのは。
でも。
潤いを、あたたかさを求めて抱いたオンナ達は冷たくて。
俺を抱き締めて放さない腕は、足は、体は、確実な体温を持っているのに。
彼女達はつめたかった。
満たされることの無い躯。
満たされることの無い、心。
しかしまぁ、そんな生活を繰り返すわけにもいかず、高3になった頃には俺も落ち着いていた。
女性は大切に。
それが鉄則になるくらいには。
ろくにして無かった勉強は、してみれば案外楽しいもので、世間に『一流』と呼ばれる大学にも合格が決まっていて。
せめてもの、家族への罪滅ぼし。
まぁ、放任主義の両親はさして気にしていなかったが。
そんな日常もあっと言う間に過ぎて行き、高校の卒業式を迎えた、その日のことだ。
俺の中の全てが、ひっくり返ったのは。
◇◇◇
「ただいまー」
卒業式を終え、クラスメートと馬鹿騒ぎしてから帰宅した俺を迎えてくれたのは、しんと静まり返った真っ暗な部屋だった。
……いや、良いんだけどね。
両親とも共働きな我が家では珍しくなんてない光景である。
今更落ち込んだりしない。
それに、父さんと母さんの帰宅が遅いことは昨日聞いていた。
夜には帰るから、それから卒業パーティーしようね、とも言われたし。
廊下を抜け、リビングに進む。
お硬いブレザーを脱いで無造作にソファーに放った。
シワになったって構わない。
もう着る予定も無ぇんだから。
卒業式ということで珍しくキッチリ締めていたタイをほどいて、それもソファーに放る。
第一ボタンまで閉めていたシャツも、普段通りにボタンを外した。
「……はぁ、つっかれたー」
思わず零れた言葉。
慣れないことをするのは疲れる。
コーヒーでも飲もうかな、そう思ってキッチンへと進もうとした、その時だ。
ガタ、ガタンッ!
そんな、とんっでも無く大きな音が二階からしたのは。
「…………なんだ?」
明らかに大きなモノが落下したその音に、少なからず警戒心が芽生える。
……空き巣か?
空いてねーぞ、俺居るぞー。
つーか、梓川家に空き巣に入ろうなんざ良い度胸してんじゃねぇかコソドロが。
そんなことを思いながらキッチンから包丁を拝借し、二階へと上がる。
「…………」
息を殺して、二階の右側、俺の部屋を覗き込む……が、誰も居ない。
汚い部屋の中心に、何故か紐で縛られたジャンプが積まれていただけだ。
……母さん、ジャンプ捨てる気満々ですか。
まぁでも、それを絶対阻止するとか思ってる場合ではない。
我が家にはコソドロが入っているかもしれないのだから。
二階の部屋は残り2つ。
父さんと母さんの寝室と、湖子の部屋。
……寝室は無いと思う。
あそこは子供ん時の馬鹿な湖子(今も馬鹿だけど)が窓から落ちかけたという黒歴史から、窓に格子がはめてある。
よって、窓からの侵入は不可能。
つまり。
コソドロは湖子の部屋に居る。
てことで、突入。
バンッ!
俺は勢い良く湖子の部屋のドアを開けた。
我ながら考え無しな行動だったと思う。
本当にコソドロ居たらどうすんだ。
まぁでも、こんな落ち着いた物言いをしていると言うことは、俺は無事だということで。
ドアの向こうは、不思議な部屋でした。
だなんていうことも無く、まぁ、なんつーか。
湖子がベッドから転がり落ちていた。
「…………はぁ、なんだよ」
包丁とか持ち出した俺が恥ずかしいじゃねぇか……。
そんなことを思いながら、むにゃむにゃと幸せそうに眠る妹を見つめる。
昼寝っつーか、夕寝だな。
優雅なもんだぜ。
そういや昨日、俺と一緒に探偵ナイトスクープ見てたもんな。
そんなことより、こいつをベッドに上げてやらなくては。
俺は湖子の胸倉をひっ掴み、そのままベッドの上へと持ち上げた。