短編小説1

□SとMの休日
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私の幼なじみ、月島刹那くんは。

お隣のお家の一人息子さんで。
綺麗で、格好良くて。
背が高くて。
私より3つ年上の大学生で。
頭も良くて。
町内のみんなに好かれてて。
サディストだけど、それを欠点と言わないのなら、完璧で。


そして。


なんだか最近、色々とエスカレートして来てません?
















『SとMの休日』
















夏休みも疾に終わり、半袖では少し肌寒くなって来た今日この頃。

9月の半ば。

まさかの5連休という、学生には大喜びな休日を目前にしたある日のこと。

悲劇は起こった。

「…………え゛?」

綾倉家一階のリビングにて。
母から告げられた無情とも呼べる発言に、思わず顔が引きつった。

「だーかーらー、基希さんが連休中に海外出張だって言うから、私もお友達と泊まりで出掛ける約束しちゃったの」
「私は……?」
「だからさっきから言ってるでしょ。月島さんとこで預かってもらうことになったって」

預かって貰うって……あなた自分の愛娘をペットみたいに。

まぁ、そこまでならまだ許容範囲内なのよ。
ペット扱いくらいならまだ耐えられるわ!

でも!

「セツ兄ちゃん家も出張なんでしょ……?」

そう、確か母はこう言ったはずだ『勝流さんと幸子さんも出張みたいだから、丁度良かったわ』って。

なにが丁度良いのよ!?

「だから刹那くんと二人でお留守番しててって言ってるの」
「それくらいならこの家でロンリーお留守番してるわ、私!」
「駄目よ、年頃の女の子が何日間も家に一人だなんて。危ないでしょ」

それを言うなら、セツ兄ちゃんと二人の方が危ないと思うけど!?
まぁ、お母さんは知らないんでしょうけどね!

「……じゃあなんで最初から出掛ける約束なんてしたのよ」
「基希さんのパンツでも干しとけば大丈夫かと思ったんだけど……それなら刹那くんの使用済みの方が現実味が増すと思って、」
「なんでそんな独り暮らしのOLみたいなことしなきゃいけないのよ!」

あと“使用済み”とかリアルな話しないで下さい!

「それに幸子さんも『刹那一人じゃ心配だから』って言ってたし……丁度良いじゃないの」
「セツ兄ちゃんの信用の無さってなんなんだろう……もう大学生なのに」
「親ってのはそういうもんよ。それに良いじゃない、最近離れがちだった幼なじみとの親睦を深めるってのも」

…………まぁね。

でも。

“幼なじみ”って単語は、あの男には通用しないと思うわよ。
別の意味で親睦を無理やり深められる可能性の方が高い気がする。

ずく、と。

消えたはずの、セツ兄ちゃんに付けられた胸元の赤い花びらが疼いた気がした。

「とりあえず、明日からお世話になるんだから。ちゃんと準備しときなさいよ?」
「……準備って?」
「服とか色々要る物あるでしょ?」
「…………隣なんだから、すぐ取りに帰って来られるよ?」
「それもそうね」

嫌だ、嫌すぎる。
明日からのことを思うと、若干意識がクラクラし始めた。

……それでも。

「ごめん、ちょっと」

母に一言告げてからリビングを出て、二階の自室へと向かう。

ずっと使ってなかったボストンバッグを引きずり出して、その中に数日分の洋服……しかもお気に入りの物ばかりを詰め込んでしまう、私は。

馬鹿なのか、勇者なのか。

いや。

マゾなんだわ、たぶん。


◇◇◇


時は流れて、連休一日目。

「いらっしゃい」

そう言って微笑むのは、今日から生活を共にする幼なじみ。

……相変わらず良い笑顔ですね。

「遅かったね」
「……そ、そうかなっ?で、でもっ、まだ10時だしっ、」
「遅かったね?」

にこやかな笑顔に隠された狂気。

もう謝るしかないです。

「…………ごめんなさい」

まぁ良いんだけど。
そう言って笑うセツ兄ちゃんは、さり気ない仕草で私のボストンバッグを持ってくれる。

その異様なほど楽しげな表情の裏に、私にとって“良くないこと”が無いのを願うばかりだ。
……つまりセツ兄ちゃんにとっての“楽しいこと”が。

「楽しみで楽しみで仕方無くてねぇ、ガラにも無く昨日は眠れなくなっちゃった」
「…………うん」
「何しよっかなぁって考え始めたら止まらなくてさぁ」
「…………」

その『何をしようか』は、幼なじみの『私と二人で』ってことだよね?
『私に』何かしようってわけじゃないよね?

声にならない言葉の代わりに、冷や汗ばかりが溢れてしまう。

久々だわね、この感じ……。

「一階の和室に泊まって貰おうかと思ったんだけどね、さすがに女の子を一階に寝かすわけにいかないからさ。悪いけど俺の部屋使ってくれる?」
「セツ兄ちゃんはどうするの?」
「俺が和室使うよ。たまには使ってやらないと」


 
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