短編小説1

□SとMの関係
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月島刹那、という人間を構成する要素は。

第一に、異常なまでのサディスト。

それから。

お隣のお家の一人息子さん。
綺麗で、格好良くて。
憎らしいほど、背が高い。
年は私より3つ上の大学生。
羨ましいことに、頭も良くて。
町内のみんなに好かれてる。

欠点なんて見付からないくらい完璧な、その人は。



私の、幼なじみ……なのでしょうか?
















『SとMの関係』



















10月、某日。

全てはその日に始まった。

私達の住む街から少し離れた、繁華街の某有名デパート一階にて。
私はセツ兄ちゃんを発見した。

高級ジュエリー店ばかりが並ぶ、私達学生には縁もゆかりも無いその階にセツ兄ちゃんが居るのは不自然で。
……いや、全く持って浮いては無かったんだけど。

それがまた不自然で。

思わず、私はセツ兄ちゃんの後をつけてしまった。

セツ兄ちゃんが入って行ったのは、オードリー・ヘプバーンが店先で朝食を取る映画で一躍有名になった、某高級宝石店。
ある意味、“婚約指輪”のステータスともなるそのお店。

……そのお店になにか用でも?

なんて思ったけれど、その疑問いは愚問でしかない。

だって、そのお店には指輪やネックレスなどの貴金属しか置いてないから。
……入ったこと無いから知らないけど。

でも、そういうイメージだし。

それに、セツ兄ちゃんは店員のお姉さんと何やら話しながらショーケースから色々な指輪を出して貰ってるから、きっと、そう。

セツ兄ちゃんは、誰かへのプレゼントを買いに来たんだ。
“婚約指輪”のステータスを誇る、そのお店に。

気付けば私は、その場から逃げ出していた。

……それが、3日ほど前の話。


◇◇◇


きぃ、きぃ、きぃ。

秋の夕暮れ。
学校帰り、制服のまま。

肌寒くなって来た風を感じながら、私は自宅付近の公園でブランコをこいでいた。

きぃ、きぃ、きぃ。

定期的に揺れる体。
錆びて不快な音を立てるブランコ。

でも、そんなもの気にならなかった。

「…………はぁ、」

頭を使い過ぎてクラクラする。
私は、本日何度目かも分からない溜め息を吐いた。

3日間、ずっと頭を占領しているもの。

セツ兄ちゃん。
某、有名宝石店。

……やっぱりそれって、そういうこと?

確かに、今まで色んなことがあった。
色んなことされて来た。

痛いこと。
恥ずかしいこと。

時たま、嬉しいことも。

今思えば、とんでも無いことばっかりされてたからなぁ……。
思い出すのも恥ずかしいくらいに。

だから。

「……たしかにねぇ、」

確かに、そういう方向に話が進んだっておかしくないと思う、けど。

「……けど、さぁ、」

なんか順番おかしくないですか?

「…………はぁ、」

妙な肩こりを感じながら溜め息を吐いた、その時だった。

「あれ?芽衣ちゃん?」

そんな風に名前を呼ばれたのは。

突然のその声に驚いて勢い良く振り返れば、私の背後すぐ近く、ブランコの安全柵に座る人物を発見。

どこかで見たことあるんだけど……誰だっけ?

「こんなとこでなにしてるの?ってそっか、お家この辺だったよね」
「……は、はい、っ」

失礼にもその人が誰なのかを思い出せずに狼狽える私に、その人は眉をハの次に下げて手を振った。

「あはは、覚えてないかな?」
「いえっ、ぁ、あのっ……ぇと、えっと…………ご、ごめんなさいッ」

ブランコから飛び降りて、頭を下げる。

誰だっけ、誰だっけ……!?
何度か会ったことあるのは分かってるのに……!!

最悪だよ、私……!

「ご、ごめんなさっ、」
「いーよいーよ、気にしないで。分からなくて当たり前だから」
「……ごめんなさい」
「ううん。ほら、俺、弓道会で刹那と同じ日に通ってんだけど……思い出さないかな?中西、って聞き覚えない?」
「なかにし、さん……、」

……ッ、そうだ、中西さん!!
思い出したッ!!

「中西タツヤさんッ!」
「あはは、ご名答!」

顔を上げたら、目の前の男の人……中西さんは、本当に優しそうな笑顔を浮かべていて。

……あぁ、あの人も少しはこの人を見習って欲しい。

「ごめんなさい、私……何度もお世話になってるのにっ……!この間も、道場ではありがとうございました!!」
「ううん、気にしないで。それよりどうしたの?黄昏れちゃって」
「いえ、あの……」

セツ兄ちゃんにプロポーズされるかもしれないんですけど、どうすれば良いと思います?

……なんて聞けるわけないじゃない!

「ぁの、……ちょっと、受験のことで」
「そっかー、偉いねぇ。俺なんて芽衣ちゃんくらいの時はまだなぁんにも考えて無かったよー」
「ぇ、えへへ、っ」

ごめんなさい、中西さん。
私もまだ何にも考えてないです……。


 
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