短編小説1

□SとMの切札
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私の幼なじみ、兼、恋人。

月島刹那という人間は。


極悪非道のサディストだ!


「え?めーちゃん、今なにか言った?」
「……な、なんにも言ってないッ、」
「そう?なにか聞こえた気がしたんだけど……気のせいだね」

言ってないよ。
思っただけ。

思考まで読み取らないで下さい……!

あまりのパニックのせいで端的な表現をしてしまったことに後悔しつつ、私は浴槽の縁に頬を付けて、目の前で頭を洗う幼なじみ……いや、恋人を見つめる。

「あんまり見ないでよ」

……あなたがそれを言いますか。

休日の午後。
月島家のバスルーム。

午後のティータイム時の現在。

私とセツ兄ちゃんは。

なぜか、お風呂に入っている。

しかも。

2人で。

「……なんで、こんなことに、」

私の幼なじみ、兼、恋人は。

綺麗で、格好良くて。
背が高くて。
三つ年上で。
頭も良い。
近所で評判の好青年。

ただ。

尋常無いくらいのサディスト。

「めーちゃん、体洗ってあげようか?」

…………なんで、こんなことに。



それは、約一時間前へと遡る。




















『SとMの切札』



















遡ること約一時間前。

「ロイヤルストレートフラッシュ」

そんな、舌を噛みそうな台詞と共に提示された五枚のトランプ。
それを提示したのは笑顔のセツ兄ちゃん。

「……うそだ」
「嘘じゃないよ。ほら、ジョーカー混じりだけどスペードの10からエースまで、ちゃんとあるでしょ?」
「…………うそだ」

セツ兄ちゃんと付き合い始めてから約一年と半年。
私達は健全……と言ったら嘘になるけれど、恋人としては“健全”なお付き合いを続けている。

そんな、休日。

私とセツ兄ちゃんは、月島家のセツ兄ちゃんの部屋にてデートしていた。
部屋デートってのもどうかと思うけれど……まぁそれは置いておくとして。

で。

勝流さんと幸子さんが居ないせいで、やることが限られている(いらっしゃったらWiiとかするんだけど)私達は、なぜかポーカーに興じていた。

そして。

悲劇は起こったのだ。

「……ロイヤルストレートフラッシュ」
「ロイヤルストレートフラッシュ。凄いね、俺も出来たの初めて」
「…………ロイヤル、ストレート、フラッシュ、」

ロイヤルストレートフラッシュって本当に出来るんだ……。
都市伝説か何かかと思ってた。

まぁ、とりあえず。

「……セツ兄ちゃん、すごーい」
「あはは、ありがとう」
「すごーい、すごーい。よーし、次は負けないぞぉー……さぁて、次は、」
「めーちゃん。待った。」

使っていたトランプを纏めて繰ろうとした私の手を、セツ兄ちゃんがおもむろに掴む。

……な、なんですか?

「めーちゃんの手は?」

ぇ、いや……、たいしてアレでも無いんで別に見たって面白くもなんともないよ、うん。
時間の無駄だよ、うん。

「それにしては自信満々な顔してたよねぇ……ポーカーなのに。見せてよ、そのカード」

そう言って微笑むセツ兄ちゃんは、私の抵抗なんて無いもののように、私の手からトランプを取り上げる。

「ッ、かえしっ、」
「フルハウス、か。……へぇ、頑張ったじゃない、めーちゃん」
「……どうも」
「でもね、めーちゃん……ポーカー中にあれだけニヤニヤするのはどうかと思うよ?」
「……だって、勝てると思って」
「そっか、……でも、」

俺の勝ちだよねぇ?

そう言って微笑むセツ兄ちゃん。
……なんだか嫌な予感がする。

私は何か忘れてないか?

そう、確か……。

このゲームを始める前にセツ兄ちゃんは言ったじゃないか。

「敗者は勝者の言うことを何でもきく、って約束だったよね?」

……なにこのベタな展開!

確かにそんな約束したような気もするけれど……!

というか、ゲームを始める前の私!
なにを思ってそんな約束したのよッ!

セツ兄ちゃんに勝てる人間が居るわけないじゃない!

「ッ、で、でもッ、ロイヤルストレートフラッシュとかそんなのは予想外だったしッ……」
「でも負けは負けだよね?しかも、勝負掛けて来たのめーちゃんじゃない」
「ッ、だって、だって……っ、セツ兄ちゃん、苦い顔してたから、だから、」

そう、目の前でにこやかに微笑む男は、ゲーム中は随分と苦い顔をしていたのだ。

いつも笑顔のセツ兄ちゃんが珍しい。
もしかして相当テが悪いんじゃ……!?

そう思って勝負を仕掛けたら。

こんな結果になりました。

「さ、詐欺だわ……」
「うーん、そうは言われても。ポーカーってそういうゲームだからねぇ」
「……そうなの?」
「…………めーちゃん、間違っても俺以外の人間と賭けポーカーしちゃ駄目だからね?」

いいね?


 
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