短編小説1
□World war
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世界、に。
身長を抜かされたのは中学二年生の夏。
成績を抜かされたのは中学三年生の春。
主席を奪われた高校の入学式。
わたしが世界の上に立てるのは“姉”という立場だけになってしまった。
なにが変わってしまったの?
どうして変わってしまったの?
分からない。
でも。
わたしと世界の関係は。
17才の誕生日を境に、その姿を変えてしまった。
『World war』
「……みーちゃん」
「…………せかい?」
どさり、と何かが倒れる音。
背中には柔らかいベッドの感触。
目の前には楽しそうに笑う弟の世界、……その肩越しに見える白い天井。
わたしは何故か世界に押し倒されていた。
どうして?
なんで?
意味が分からない。
今日はわたしと世界の17才の誕生日で。
わたし達は双子だから、誕生日が同じ日なわけで。
家族団欒のパーティも終わり、わたし達は毎年恒例のプレゼント交換のために世界の部屋へと閉じ籠もっていた。
もちろん、パパとママからもプレゼントは貰ってる。
現に今年は電子辞書を貰ったし、世界もわたしと色違いのを貰ってた。
でも、毎年それとは別にわたし達はプレゼントを交換し合うことになっているんだ。
わたしは世界に。
世界はわたしに。
そのプレゼントを買うために、わたし達は自分の誕生日前になるとその時期だけ短期のアルバイトまでするのだから。
まぁそれこそ、小学校や中学校に通っていた頃はアルバイトなんて出来なかったから、両親のお手伝いで貰えるお駄賃を貯めてたくらいだけど。
でも、去年からは違う。
わたしも世界も、ちゃんと短期のアルバイトを見つけて働いた。
世界が何のアルバイトをしてるかは知らないけど、とりあえずわたしは某ファーストフード店とガソリンスタンドを掛け持ちまでして。
そして。
今年のプレゼントにはベルトを買った。
シンプルなデザインだけど、それなりに値の張る良いものを。
高校に入って制服がブレザーに変わったから、きっとそのベルトが良く合うだろうなって思って。
そのベルトが入った、プレゼント用の綺麗な箱を世界に渡したのが数分前。
じゃあ今何故わたしは世界に押し倒されているの?
……意味が分からない。
世界にプレゼントを渡したら、世界もにこやかに微笑みながらわたしに小さな箱を渡してくれた。
手のひらサイズの、可愛らしいピンクのリボンが結ばれた、小さな箱を。
で、お互い目の前でプレゼントを開封し合って?
例年と変わらず、世界は喜んでて?
それから……?
世界がわたしにくれたプレゼントは、綺麗なアメジストのピアスで。
シンプルながらも細やかなデザインが施されたそれを、『高いだろうなぁ』なんて思ったと同時に、小さな疑問が浮かんで……、それで。
わたしはその疑問を口にしたんだ。
「わたし、ピアスの穴開けてないよ?」
それは当たり前の疑問だった。
わたしの耳は風穴一つ無い状態だったし、開けたいだなんて言ったことも無かったのだから。
だから、わたしは世界にそう言ったんだ。
そしたら。
世界はにっこりと笑ったあと、無言でわたしをベッドに叩きつけた。
「……どういうつもりよ」
「どういうつもりだと思う?」
「質問を質問で返さないで。とりあえず不快よ。どきなさい。」
嫌に笑顔な世界に苛ついて、わたしは自分の上に乗っかっている弟を睨み付ける。
普段ならば世界が怯えるはずの、強い言葉と共に。
でも。
今日ばかりは何かが違った。