短編小説1
□13日の金曜日
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「今日も男前ねぇ、リクくんはー、」
「えぇ、俺はー?」
「うーん…………並?」
「美樹ちゃんひっでぇ!」
毛を逆立てて待ち受けること約30秒。
わたくしの天敵であり、悪魔の申し子である啓介さまの猫……黒猫のリクさまはその四本足を全てこのリビングの床へとお付けになられたのです。
「よぉ、一週間ぶりだな。……相も変わらずきったねぇ色だな、まだら」
「三毛ですわ!それを言うならリクさまだって真っ黒ではありませんか!」
「俺はお前とは違ぇの」
怒りのあまり、勝手に尻尾が立ってしまいました。
逆立ちそうになる毛を宥めます。
落ち着くのよ、コモモ。
わたくしが大人にならなければ。
「ま、まぁ宜しくてよ、なんとでも言って下さいまし!」
「ぇ、マジで?じゃあ遠慮無く。お前ってほんとアレだよな、パッとしねぇっつぅか芋臭いっつぅか……なーんの変哲も無い三毛猫だよな。それでお前が雄とかなら美樹も喜ぶんじゃねぇの?知ってたか、三毛猫の雄は1%しか産まれねぇんだとよ」
リクさまは機関銃のように話し続けます。
「つーことはアレだ、お前は三毛猫の99%中の1匹だ。ほら見ろしょーもねぇ。人間で言やぁA型だ、いや、A型が悪いわけじゃなぇけどな、啓介もA型だしな……A型の人間は好きだぜ。ただお前は人間のA型どころじゃねぇくらいにありきたりなわけだ。三毛猫が100匹居たら、お前みたいなのがあと98匹居るわけだ。この就職難にキッツイぜぇ?うん、だからさ、お前、」
な、なんですの……?
「もう家出してノラになっちゃえよ」
「どうしてそこまで言われなければなりませんのーっ!?」
「この穀潰しが」
「ひどいですわーッ!」
大人にならなければと、甘んじてリクさまの言葉を聞いていたわたくしですが、思わず涙が溢れました。
酷いです、そこまで言うことないではありませんか……!
自分は真っ黒のくせに……!
「ノラになったら拾ってやんぜ?」
「同族に飼われるなんて、まっぴらごめんこうむりますわ!」
「つーか、お前は毛色どうこうの前に毛並みが汚ぇんだよ」
「女の子に対してなんてことを……!」
「汚ぇのは事実だろ。おら、後ろ向いてろ馬鹿猫が」
半場無理やり体を方向転換させられ、そのまま髪に櫛を通されます。
リクさまなんかに触られたくない、と抵抗しようにも体が動きません。
心地良いのも事実なんですもの。
本能とは恐ろしいものですわ。
「うっわ、絡まりまくってんな……ちゃんと自分で梳いてんのかよ?」
「……下手なんでしょうか、わたくし」
「不器用か。平凡な上に不器用と来りゃあ、嫁の貰い手もねぇな!」
「余計なお世話ですわ!」
知っていますわよ。
自分が平凡で不器用なことくらい。
知っていますわよ。
誰の目にも止まらないくらい、自分は落ちこぼれってだってことも。
知っていますわよ。
今わたくしの髪を梳いて下さっている黒猫が、近所でも評判だってことも。
公園に行けば、誰かが髪を梳いて下さるんでしょう?
可愛い女の子達をはべらしているのでしょう……?
「ッ、……不潔ですわーッ!」
「なんだよ!?暴れんな!馬鹿!」
「春になれば大忙しですわね、このモテモテさんめぇッ!」
「誉めてんのか貶してんのか分かり辛ぇ!あと一つ言っとくぞ、俺は気に入った奴しか近付かせねぇかんな」
「…………それは、暗にわたくしに『近付くな』と仰有ってますの?」
「平凡で不器用で更には頭も悪ぃのか?救いようねぇな」
「…………」