短編小説1
□草食彼氏の攻略法
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大事にされてるのは分かってる。
でも、……でも、ね。
少しくらい求められたい、って思うのは。
私の我が儘……なんでしょうか?
『草食彼氏の攻略法』
私の通う女学院は、それなりに名の知れた名門校で、全寮制で。
基本的に寮からの出入りは自由に出来ないから、学友と付き合っている子以外は彼氏無しばっかりだ。
学友。
まぁ、つまりは……ほら、漫画とかでよく見かける……、あの、……女の子同士のアレですよ。
確かに“女学院”“全寮制”なんていう閉鎖的な世界に居れば、女の子に走る気持ちも分からなくは無いし、別に偏見も持ってない。
普通に格好良い子とかも居るしね。
クラスメートの東宮道行を筆頭に、同性である女の子達をキャーキャー騒がせている学友も少なくは無い。
でも、残念ながら私はそんな学友達に興味は無いのです。
ぁ、恋人的な興味は、ってことね。
だって。
私には、素敵な彼氏が居るから。
御神楽、芳彦。
全寮制である我が校付属の女子寮“エーデルワイス”の寮長であり、私の恋人。
中等部に入って、入寮の挨拶をした時からずっとずっと好きだった、その人。
私より七つも年上なのに、全然そんな風に見えない雰囲気とか。
なんでそんな若さで寮長を勤めているの?っていうミステリアスさとか。
ほんとに、大好き。
雨漏りの修理で屋根から落っこちちゃうとことか、何も無いとこで転んじゃうとことか。
笑うと『へにゃ』って音がしそうなくらい緩む口元とか、八の字に下がる情けない眉とか。
ほんとにほんとに、好きで好きでたまらない。
そんな彼と思いを通じ合えたのは、3ヶ月くらい前のこと。
お互いがお互いを悪く思ってない、ってことは分かってたけど、なかなか好きだとは言い出せなかった私達。
痺れを切らしたのは、私だった。
無理やり体育倉庫に御神楽さんを連れ込んで告白した私に、御神楽さんは顔を真っ赤にして小さく頷いてくれた。
思わず私から抱きしめちゃったよ、可愛すぎて。
だって、とても24歳とは思えない反応だったんだもの。
とにかく、3ヶ月程前のその日、私達は晴れて“恋人同士”となったのだ。
しかし。
私は御神楽芳彦という男を甘く見過ぎていたらしい。
なにがって?
あの男、御神楽芳彦は……恋人になって3ヶ月も経つというのに、キスの一つもしてこないのだ。
それってどういうことなわけ?
「私に魅力が無いからなのかな?」
「蓮見、相談に乗ってくれと言っていたのはそれのことか?」
「そうだけど?」
何かおかしいこと言ったかしら?
首を傾げる私に、クラスメートである東宮道行……通称みっちゃんは怪訝そうな表情を隠しもしない。
「それは相談とは言わんぞ、答えは誰にでも分かるからな」
ここは女子寮“エーデルワイス”の東宮道行と相原馨の部屋。
定時の夕食を取り終えた後、私はみっちゃんに御神楽さんのことを相談するべく、彼女達の部屋にお邪魔していた。
私と御神楽さんの関係を知っているのは、この二人だけだから。
……それにしても。
「ほんとに、そんなに簡単なの?」
「ああ、ただ単に御神楽がチキンなだけだ、それ以外に答えがあるか?」
「道行!あんたものには言い方ってもんが……、」
「雌豚は黙っていろ」
「……調子乗ってすいませんでした」
口を出そうとした馨ちゃんを遮って、みっちゃんはまっすぐに私を見つめてくる。
相変わらず美人さんだわ。
「それ以前に、あんな男のどこがいいんだ?点呼もまともに出来ないような駄目寮長だぞ?」
「あら、そこが良いんじゃないの」
「下着泥棒を捕まえようとして、犯人に間違えられるようなマヌケでもか?」
「あの時の御神楽さん可愛かったぁ」
「馨、駄目だ。こいつは病気だ」
良いのよ、なんて言われようとも。
御神楽さんの魅力は私にだけ分かってれば良いんだから!
「で、だ。本題に移ろう。つまりお前はあの駄目寮長とセックスしたいわけだな」
「道行!露骨すぎッ!」
「うーん、セックスとまでは行かなくても……ちゅーくらいはしたいなぁ、って」
「蓮見ちゃんも疑問とか持とうかっ!?」
「ほう、そうかそうか。もうすぐ春だからな、盛っても仕方あるまい。浅ましいな、蓮見は!」
「えへへー」
「あんたらそれで良いの!?本当にそれで良いわけッ!?」
「黙れゴミ虫」
「馨ちゃん煩い」
なんやかんやと口出ししていた馨ちゃんを一括したら、馨ちゃんはうなだれたままに隣の部屋へと消えて行った。
寝るのかな?と思って部屋の方を伺えば、どうやら馨ちゃんはミシンで何かを縫っているらしい。
ガガガガガ、とミシンの音が聞こえるから。