短編小説1

□星砂
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見つけて。

本当のことを絶対に言わない私と。
本当のことしか絶対に言わないあなた。

流れ星より少ないあなたの言葉。
星の数よりずっと多い、私の言葉。

見つけて。

あなたの嘘を。

見つけて。

私のこころを。


















『星砂』


















「……きもちわるい」

朝、みんなと同じ時間に起きて。

みんなと同じ制服を着て。
みんなと同じ朝ご飯を食べて。
みんなと同じ靴を履いて。
みんなと同じ寮を出て。
みんなと同じ学校に行って。
みんなと同じ授業を受ける。

「きもちわるい」

みんなと同じ体操服を着て。
みんなと同じ運動をして。
みんなと同じ食堂でお昼ご飯を食べる。

「きもちわるい」

みんなと同じ眠たい時間を過ごして。
みんなと同じ時間に授業を終えて。
みんなと同じ寮に帰って。
みんなと同じ晩ご飯を食べる。

「きもちわるい」

みんなと同じお風呂に入って。
みんなと同じ時間に電気を消して。

そして、また。

みんなと同じ時間に目を覚ます。

「……気持ち悪いと、思いませんか?」

昼食時間を終えた校舎内は5限目へとその空気を変えたというのに、私はぼんやりとしたまま校庭を見下ろしていた。

4階の音楽準備室。

めったに使われないこの教室は酷くホコリっぽいけれど、誰も来ないから私にはとても好都合。

ここには誰も来やしない。

ただ一人、この人を除いては。

「……なにが、気持ち悪いんだ」
「全部ですよ、全部。みんなと同じ制服着て、みんなと同じ列に整列して、みんなと同じ行動を取ることとか」
「…………そうか」

そう、小さな声で相槌を打ったきり口を閉ざすのは、私の通う全寮制女学院の古文の先生。

名前を、宮部奏一朗。

無口。
無表情。
無感動。

数々の“無”を持つ男。

……ぁ、そうだ、それから。

私の彼氏。

「……加藤先生が」
「私のこと探してた?」
「…………」
「だよね、今まさに授業出てないし」

なにがどうなってこんなことになったかは覚えて無いけれど、私と奏一朗先生は付き合っていた。

もう一年以上になるかな?
覚えてないや。

とりあえず、付き合いは決して短くない。

先生が何を言いたいかくらい、分かるようになってしまう程度には。

「……体調が悪くないのなら」
「はい、ごめんなさい。次からはちゃんと授業出ます」
「…………」
「怒らないで。体育に出られるほど元気じゃなかったの、生理が来てて、……ほんとよ?」
「……怒ってはいない」

相変わらず、平坦な先生の声。
その声から感情が読み取れた試しなんて無いけれど、先生が『怒ってない』と言うのだから怒ってないのだろう。

先生は決して嘘を吐かない。

「…………」
「…………」

部屋の中の沈黙。
校庭から聞こえる人の声。

先生はめったなことが無い限り、自分から口を開くということをしない。
だから私も黙ったまま、クラスメート達がテニスをしているのを見つめてるんだ。

みんな同じ体操服を着て。
みんな同じ練習を繰り返す。

……あぁ、やっぱり。

「きもちわるいなぁ」
「……そうか」
「気持ち悪いよ、みんな同じ格好して同じことしてるんだもん。ここからじゃ誰が誰だか分かんない」
「……そうだな」

4階の教室からじゃ、いつも同じ教室で過ごしているクラスメートと言えど見分けることなんて出来ない。

特別髪が長いとか、特別身長が高いとか。

そんな特徴的な容姿をしている子なら分かるけど。
それ以外なんて、みんな同じに見える。


 
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